こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

そこにある細くて深い溝@ミュージカル「パレード」

2/6(土)17:00~ シアター・ドラマシティ

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スタッフ

作:アルフレッド・ウーリー
作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
共同構想及びブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
演出:森 新太郎

 

キャスト

石丸幹二堀内敬子武田真治、坂元健児、福井貴一、今井清隆、石川 禅、岡本健一
安崎 求、未来優希、内藤大希、宮川 浩、秋園美緒、飯野めぐみ、熊谷彩春
石井雅登、白石拓也、渡辺崇人、森山大輔、水野貴以、横岡沙季、吉田萌美

 

1913年アメリカ南部の中心、ジョージア州アトランタで実際に起こった少女殺人事件を扱ったこの作品。

事件についての解説は公式ホームページよりどうぞ。

ミュージカル『パレード』【解説】1913年 レオ・フランク事件まとめ【実話】 | 特集記事・インタビュー | 【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

 

わたしはこの「現実に起こった冤罪事件を扱った作品」だということ以外は、全く知らないまま観劇しました。これがいいのか悪いのかはわかりませんが、とりあえずそれ以外を知らなくてもちゃんと作品が成り立っていることがすばらしいと思います。


この作品にはさまざまな「差別問題」が描かれています。
人種、宗教、性別、階級、地域。
これだけ織り交ぜられると、なんだか難しそうな気がしますし、実際アメリカ南部の地元住民からアメリカ北部ユダヤ人への妬み、みたいなものは、この作品を見て(というより終わってから劇場で配られていた解説を読んで)はじめて知りましたが、その理由は分からずとも、その気持ちはなんとなく理解してしまえるのです。
つまりこの作品に描かれている差別感情は、誰しも抱いているもので、それを押し出すことなく、さりげなく描いている脚本が、まずため息ものでした。

主人公レオ・フランクは北部ニューヨークで生まれ育ったユダヤ人で、訳あって南部ジョージア州アトランタで結婚し工場長として働いているわけですが、この人のさりげない「上から目線」が、はじまって早々の短い時間の間に描かれているすごさ。
南部の住民への、貧しい少女への、そして自分の妻という女への無意識的な見下した感情と態度。
彼が冤罪であることは、物語を見ている観客としては明らかなのですが、それでもこの人がもっと地域社会に溶け込み、人々とコミュニケーションを取ろうとがんばっていれば、ここまでの事態にはならなかったのではないだろうか、と思わせる人物に描かれていることが、本当にこの脚本の優れたところではないでしょうか。
また妻ルシールも頑なで南部の誇りを胸に、北部からきた夫を見下している部分が見えます。
そんな明らかにうまくいっていない「カタチだけの夫婦」が示されたあと、事件は勃発します。

自分の保身と出世のためにレオに罪をかぶせようと画策する権力者よりも、純粋で単純な若者が、恋する少女を失ったことによって何も考えずただ示された答えだけに向かって復讐心を膨らませていく部分が、とりわけ個人的に恐ろしいなと思ったところでした。
こういったことは身近にあふれていて、自分がそうでないよりそうである可能性の方が高いのです。
そして何度も偽証を繰り返しているうちに、良心の痛みは消え去り、自分の言葉が一人の人間の命を左右している感覚がなくなってしまうことも怖い。
この事件はレオやルシールを含んだ「大多数の善良なる人々」のちょっとした不満や妬みから膨らんでいってしまったのです。
作品中で「真犯人」が明らかにされることはありませんが、そんなことはどうでもよくて、自分と違う人とどうやって手を携えてこの世の中を生きていくのか、みたいなことを見ながら考えずにはいられませんでした。
自分の中の、他人の中の「無意識の差別」。この細くて深い溝がすべての断絶を生んでいるような気さえしました。

そんな登場人物にも自分にも哀しくなってしまう脚本なのですが、この冤罪を経て「女で妻である」という色眼鏡を取り払い、ルシールという「人間」の行動力と前向きな明るさを尊敬するようになったレオと、そんなレオを愛おしく思い始めるルシールが「カタチだけの夫婦」ではなく、本当に愛し合うようになるシーンは希望でもありました。
わたしたちの身近にある溝は、互いに対する尊敬と愛で乗り越えることができるのかもしれない、とも思いました。
でもまだまだ現実は厳しく、溝は深く、わたしたちは傷つけあうことしかできないのかもしれないと痛感させるラストシーン。
冤罪事件と一組の夫婦を描くことで、ここまでの「現実」をつきつけた脚本が本当に素晴らしい作品でした。

そしてこれほどの脚本を「魅せる」ミュージカルに仕上げたのが、これまた素晴らしい楽曲なのです。
ハーモニーこそマニアックにテクニカルで重厚なのですが、重い話を彩る音楽は時にユーモラスで全体にリズミカルで、音の粒が降り注ぐような気持ちがするほど美しいのです。

そんな音楽にあわせたように降り続ける極彩色の紙吹雪の演出。
最初の南軍戦没者追悼記念日のパレードの紙吹雪かと思っていたら、舞台の最後まで要所要所で降り続く紙吹雪。もちろんそれは舞台の上にもセットにも積り、それが土にも木の葉にも雪にも、そして絨毯にも、ふかふかの芝生にも見えるのです。もちろん涙にも、雨にも。
これはオリジナル版にはない演出で、これほど強い楽曲と脚本を持った優れた作品にこの味付けをすることが日本版として本当にすごいなと思いましたし、輸入ミュージカル演出の可能性を広げたように思います。
そしてこの紙吹雪と、オリジナル版にもあった「木」のセットを組み合わせたオリジナルロゴ(グラフィックデザイン)とグッズ展開も優れていました。

ミュージカル『パレード』 | 【公式】ホリプロステージ|チケット情報・販売・購入・予約

本当、全作品これぐらいの力をグッズなどにも注いでほしいと思う反面、せっかく優れたグラフィックデザインだったのに、ポスターはいつものようにダサかったのが残念です。

紙吹雪がやっぱり一番印象に残るのですが、斜めに刺さる照明が画面を切り取ったり、全体にシンプルでシャープな印象で、森 新太郎さんには今後もミュージカルの演出もどんどん手掛けていただきたいと期待しています。

さて脚本、楽曲、演出とハード面が完ぺきな作品を仕上げるのは、キャストです。
キャストもすばらしいの一言。
本当ジェイソン・ロバート・ブラウンのハーモニーは、いやもうマジでこんな音重ねる?てくらいマニアックで、歌う方にしたら大変難しい部類に入るんじゃないかと思うのですが、そんな難しさをみじんも感じさせず、軽々と歌いながら個々のキャラクターを演じてきたキャストにも感服。


夫婦を演じた石丸さんと堀内さんはともに劇団四季出身ということで、演出の意図かもしれませんが、最初のうちはかつての「四季発声法」的なセリフ回しが気になったのですが、当たり前だけど二人とも歌がうまいし、主役たる華がある。
そしてラストシーンでグッと空を見つめる堀内ルシールが、ただそこに立って一点を睨んでいるだけなのに、まるでその表情がズームアップしていうような錯覚を覚えてしまったのです。こんな体験ははじめてでした。これが憑依型役者のなせる何かなんでしょうか。
最後に残るのは、やるせない思いとルーシルの“あの顔”なのです。
あの顔が何を訴えているのかは分からない。他人の頭の中なんてわかるはずもない。でも感情をゆさぶり脳裏に焼き付く。だから考えるのです。

事件自体は昔のことで、当時の捜査や裁判方法に思うところはあっても、描かれていることは、人である限り哀しいけれど変わらない部分だと思うので、ぜひとも再演を続けていってほしいと思います。
ただその時、堀内敬子なくしてこの作品が成り立つのか、その辺も楽しみにしたいと思います。

かわいいけれど惜しい、惜しいけれどかわいい@宝塚花組「Nice Work If You Can Get It」

2/7(日)16:30〜 梅田芸術劇場

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スタッフ
Music and Lyrics by George and Ira Gershwin
Book by Joe DiPietro
Inspired by Material by Guy Bolton and P. G. Wodehouse
潤色・演出/原田 諒

キャスト
ジミー・ウィンター 柚香 光 
ビリー・ベンディックス 華 優希 
クッキー・マクジー 瀬戸 かずや 
アイリーン・エヴァグリーン 永久輝 せあ 
ベリー署長 汝鳥 伶 
ミリセント・ウィンター 五峰 亜季 
エストニア公爵夫人 鞠花 ゆめ 
デューク・マホーニー 飛龍 つかさ 
ジェニー・マルドゥーン 音 くり寿 

 

2012年の新作ミュージカルであるはずなのに、「古き良き時代」テイスト満載のこのミュージカル。ガーシュインの音楽を使ったジュークボックスミュージカルか、とも思ったのですが、禁酒法時代(1920-1933年)まっただ中の1926年に上演された「Oh, Kay! 」というミュージカル作品のリメイク版だとTwitter情報で知りました。
とはいえ「スタッフ」の「Inspired by Material by Guy Bolton and P. G. Wodehouse」というところがミソで、この2人がガーシュインと組んで作ったミュージカル全般の曲が使われています。
そんなわけで、2012年ブロードウェイで新作としてオープンした際でも、こんな感じの「古き良きミュージカル黄金期」テイストのヴィジュアルが用いられています。

 

 
ここから勝手に察するに、これは宝塚歌劇における「ベルばら」なんじゃないかと。
古き良き時代のミュージカルが大好きなオールドファン層向けに作られたモノ。

そんなわけでストーリーはごくごくシンプルなボーイミーツガールのラブコメです。
これ以上の説明はいらないと思います。

 

わたしはそういうミュージカルが大好きなので、この作品も大変楽しく見ましたが、やはり思うのは「1シーン1シーンが長い!」です。
今のミュージカル作品にはないようなダンスと歌のショーアップ加減は大変楽しいのですが、長い!そしてまったりしている!
2012年のトニー賞映像を見ても(そしてケリー・オハラさまの歌声で聞いても)

youtu.be

そう思うのですから、せっかく輸入したのを機にもっと改善してもよかったんじゃないかと思うと残念です。
むしろセットにしろ振付にしろ、そういうハード面がブロードウェイに敵わないだけに、思い切った潤色をお願いしたかったなあと思うのです。
ハッピーなラブコメミュージカルは現在の閉塞的な世の中でひと時の夢を一番見せてくれるもの、だとも思うので、よけいに惜しい気持ちが抑えきれませんでした。
(唯一、オーバーチュアがある作品で録音演奏はつらいな、と思うところを緞帳のピアノ電飾を光らせて見せてくれたところは感心しました)

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ただ宝塚歌劇には男役がいる。
そして現在の花組には今一番の美貌を誇るトップスター、柚香光がいる!
その柚香光がお金があって顔がいいだけのアホボンを演じる無敵さ。
全ての粗を吹っ飛ばして「もー、かわいいから許す!てかかわいすぎてたまらん!キュンキュンする!」と盛大にときめかせてくれたことに感謝。
そしてビリーの華優希さんが本当に演技もよくてかわいくて、2人が一緒のシーンは無敵でした。
またジェニーの音くり寿ちゃんがメインのシーンでは「私を見よ!」ぐらいの勢いでバーンと美声を響かせてくれるので、これも心地いい。あと個人的にエストニア公爵夫人の鞠花ゆめさんが好きでした。前回の「はいからさんが通る」でも好きだなと思ったので、好みの演技なのだと思います。
一方でアイリーンの永久輝せあさんは大変美しかったのですが、ちょっと押し出しが弱かったかなと個人的には感じました。
アイリーンがこれまたこの時代のミュージカルのテンプレライバルキャラクター「思い込みが激しいリッチな金髪美人」で、それゆえにコミカルになってしまう、というのは面白いところでもあるのですが、こういう役は宝塚歌劇の生徒が演じるには非常に難しいのですよね。
さらに見せ場のバスルームのシーン(Delishious)が宝塚歌劇的にセクシーにすることもできず、これぞショー!というようなゴージャスさも見せることができなかったことがただただ残念。
このシーンの作り方1つで「まるで夢の国」みたいなことを思わせることができたはずなのです。この辺は演出というよりも資金面の哀しさを感じさせます。

 

しかしながら、こういう一見くだらない作品がもたらしてくれる多幸感こそがエンターテインメントの醍醐味だなとしみじみ感じました。
そして柚香光さんのダンス力はタップダンスにも活かされることがわかりましたし、フィナーレの一瞬しかなかった「黒燕尾服&シルクハット」の柚香光が本当に美麗だったので、ぜひともこういうクラシックなショーを彼女で見たい、と心の底から思いました。

というかこのクリップを見る限りでは黒燕尾服&シルクハットのジミーのシーンが多そうなのに、なぜ宝塚版はフィナーレだけだったのかナゾ。

今の宝塚ファンの方はシルクハットに萌えがないのでしょうか。
年に数回しか現在宝塚歌劇を見ないので、何ともいえないのですが、最近宝塚のショーで、黒燕尾服&シルクハット+ステッキ、みたいなシーンをしばらく見ていない気がするのです。
ステッキは置いておいても、シルクハットは見たい!
宝塚歌劇版の「TOP HAT」がどんな感じだったのか分からないのですが、ウエストエンド版の「TOP HAT」はどこをどうしたのか中だるみ感もなく、長さを感じなかったので、この演出で柚香光版の「TOP HAT」を見たいなと思います。
せめて「CHEEK TO CHEEK」のシーンだけでもショーの一場面に入れてもらえる日を、言霊を信じて書き残しておきます。

youtu.be

極上のゴシックエンターテインメント@ポーの一族

1/16(土) 12:00〜、1/22(金) 17:00〜 梅田芸術劇場

スタッフ
原作萩尾望都ポーの一族』(小学館「フラワーコミックス」刊)
脚本・演出 小池修一郎宝塚歌劇団
作曲・編曲 太田健(宝塚歌劇団
美術 松井るみ
振付 桜木涼介 KAORIalive 新海絵理子

キャスト
エドガー・ポーツネル 明日海りお
アラン・トワイライト 千葉雄大
フランク・ポーツネル男爵 小西遼生
ジャン・クリフォード 中村橋之助
シーラ・ポーツネル男爵夫人 夢咲ねね
リーベル 綺咲愛里
大老ポー/オルコット大佐 福井晶一
老ハンナ/ブラヴァツキー 涼風真世
ジェイン 能條愛未
レイチェル 純矢ちとせ

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全体の感想を書く前に、今回はきっと千葉雄大さんのアランが大事だと思うので、先にそこ、いっておきますね。

千葉雄大さんはがんばっていました。特に30才を超えた男性がちゃんと「14歳くらいの可愛い少年」に見えたことは1番大切で、すごい点だと思います。

ただ、わたしは原作アランにも柚香光アランにも特に何の思いれもありませんが、舞台上の役者さんを見る際に個人的に1番重視するポイントが「セリフ回しと動き方」なんです。

セリフ回しは悪くなかったし、少年役ということで、実際の声よりも高いところで出し続けなければならないことは、とても大変だろうなと思います。でも動き方が本当に見ていてつらかった(涙)

舞台を見ながら、この方はとても真面目で努力家なんだろうなと思いました。演出家に言われたことを気をつけ、周りとの差を必死に埋めようとなさっていた気がするのです。その結果、スキルの足らなさを埋めるために、アランという役を演じることに全力を注げていないように見えました。2回目の観劇時ではずいぶんとアランとして感情を乗せられてきていたので、きっと大千穐楽には、かなり良いものが見られることと思います。

でもこの作品は、宝塚歌劇でも2.5次元ミュージカルの価格設定でもないのです。つまり成長を楽しむための舞台ではない。だから彼が初日からアランとして息づくよう導けなかったのは、単に演出家の責任だとわたしは思っています。

あとアランの「緑の瞳」を印象的に残せなかったのも小池先生の足らなさでしょう。

 

さて、3年前の宝塚歌劇版「ポーの一族」は、あえてのほぼ原作未読で行きましたが、今回は全部読んで行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

内容は宝塚版とほぼほぼ一緒ですが、宝塚版より個人的にいいなと思ったポイントが、「ちりとなり消滅するポーの一族の最期」の見せ方。

宝塚版では老ハンナのみ、消えてプシューと煙が出たのですが、今回はメリーベル以外はちゃんとこの消え方で、しかも大老ポーは新しい漫画の「ポーの一族」の方で死んではいなかったことが明らかにされるので、それに従ってぼかしているのも、小池先生のなみなみならぬ原作への愛を感じました。 

 

宝塚版では薔薇を全面に押し出し、夢々しさをみせていたセットも一転、ティム・バートンの映画を思い出させる「幻想的なゴシックホラー」なイメージでとても美しく、三階分くらい階段を作って組んだことで、立体的に魅せていました。そしてそれを盆を回したり、切り離したりしながら使っていくステージングも見事でした。

アンサンブルが本当に実力者揃いだったため、オープニングの踊りがとても迫力があり、振り付けも優れていました。

男性が入ることでコーラス、音に厚みが出たこともよかったです。

また一幕ラストシーンが相変わらず圧巻!

階段のセットを活かして、盆をぐるぐる回しながら、エドガーの過去から今までの人生とその他の人々の生きている様を多面的に一気に見せてくるさまにゾクゾクしました。この辺、本当に小池先生、天才!とやっぱり思ってしまうのです。

あとはやはりコヴェントガーデンやホテル・ブラックプールの明るいシーンのショーアップ具合が、この作品をよりエンターテインメントに仕上げていて、本当終始見ていて楽しい作品でした。

 

宝塚版 

ポーの一族('18年花組・東京・千秋楽)

ポーの一族('18年花組・東京・千秋楽)

  • 発売日: 2019/12/01
  • メディア: Prime Video
 

 

と細々した変更点(上記コヴェントガーデンでエドガーの短い歌が差し込まれたりとか)はたくさんありますが、大きな変更点は、下記2点かな。

 

①男爵とシーラの婚約式で、大老ポーの歌が増えている。

②メリーベルと銀のばら部分のシーンが長くなり、メリーベルのソロ歌唱がある。

 

①については、ソロ歌唱はいいのですが、寝覚めたばっかりの大老ポーと老ハンナとのやりとりが歌になってしまい、個人的には長尺に感じました。ここはセリフのままの方が好みでした。

②は断然、今回の方がいいですね。さらにメリーベルのソロ曲がいい。子どものエドガーとメリーベルで歌っていた歌(お前の水車)を上手く転調して、歌詞もその歌を受けて作られていて、メリーベルが一族に加わったその感情を丁寧に見せていました。シーンの後に「オズワルドの遺言」が加わったのも、個人的には好みの足し算でした。

 

で、ですよ!

綺咲愛里リーベルが天然にかわいい!ナチュラルにかわいい!

ご本人の個性とか得意分野とこの役があっているんでしょうね。演技している感ゼロ。美少女特有の魔性性は感じられなかったけれど、笑い声まで無意識に全部、自然に美少女で大変満足いたしました(笑)

 

明日海エドガーは宝塚版から何ら変わらず、もうエドガーとして完璧なことにため息がでるレベルの完成度です。

男優に混ざっても「エドガーとして」違和感がない。宝塚版では最初の銀橋ソロが、今回は階段のセットに座った状態からはじまるのですが、このシーンが「絵」としても魅せるのです。孤独で淋しさを湛えながら佇むエドガーは、まるでこんな原作のシーンがあったんじゃないか、くらい思わせました。

 

小西遼生さんの長身で端正なポーツネル男爵と夢咲ねねちゃんの強くて愛情に満ちたシーラがいることで、宝塚版より「家族感」を増していて、エドガーが肉親(メリーベル)だけではなく、演技ではあったけれども家族と呼んでいたものを全て失くした哀しみ、その孤独感は今回の方が伝わりやすくなっていました。

 

一方で老ハンナは宝塚版より冷たい。こういう「赤い血流れてないよね」な役をやらせると涼風真世さんは素晴らしいですね。

その歌声と存在感が光っていて、婚約式の始まりなんかは、「えーと、わたし今30年くらいタイムトリップして、カナメちゃん(涼風真世さん)がトップのショー見にきてるんだっけ?」と錯覚しました。ブラヴァツキーについては、あ、PUCKとかオットーよりのカナメちゃんだよね、と思って見ました。いいか悪いかと言ったら、演技パターンが限られているのは悪いのですが、熱心に宝塚を見ていた当時を思い出して、めちゃくちゃ楽しかったのでよし!(^◇^;)

少なくとも歌声は圧巻だったし、それで彼女の仕事は果たしていたでしょう。

 

個人的にはジャン・クリフォード中村橋之助さんとバイク・ブラウンを演じた丸山泰右さんが、とてもセリフ回し、滑舌がよく心地よく見られました。

そしてセリフ回しがいいから、宝塚版ではわたしにとって少し印象の薄かったシーンが改めて浮き彫りになったのも面白い体験でした。

特にメリーベルが殺された後、やってきたエドガーに「何か言い残すことは」と言われ、クリフォードが「君はどうして、なぜ生きている」と問いかけるシーン。

この言葉を受けて発砲するエドガーの感情、そして続く哀しい嗚咽のような歌(何故生きているのか?)が、よりグッと心に迫ったのです。

ああ、芝居する相手によって変わる、ということはこういうことをいうのだなと思います。

 

ホテル・ブラックプールを歌った加賀谷真聡さんといい、ユーシスやオズワルドも演技もダンスもよく、アンサンブル全体がこの公演を引き上げてくれていたのも嬉しく、わたしには何度見ても楽しい、面白い良作でした。

なので大阪公演は観劇日と近かったこともありライブ配信は見ませんでしたが、東京、名古屋のライブ配信はぜひ見たいと思っています。

 

そしてTwitterでも散々つぶやきましたが、セットで一点変えていただきたいところがあるのです。

リーベルが追い詰められるシーンに、薬棚のようなものがあるのですが、その棚のガラスにメリーベルが映ってしまうのです。

これでは散々劇中で「鏡に映っていない!」と男爵が注意するシーンが台無しです。

ぜひとも東京公演が始まる前に、棚からガラス的なものを取っていただけると嬉しいです。

ポーの世界観に浸れることこそが、この作品の魅力だと思うので、世界観の小さなヒビはぜひとも早く修復してくださることを期待しつつ、名古屋までのこの公演の完走を心から願っています。

不器用で真面目を突き詰めた先@宝塚雪組「fff-フォルティシッシモ-」「シルクロード~盗賊と宝石~」

1/9(土)11:00~ 宝塚大劇場

『f f f -フォルティッシッシモ-』~歓喜に歌え!~
作・演出/上田 久美子

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 望海 風斗 
謎の女 真彩 希帆 
ナポレオン・ボナパルト 彩風 咲奈 
ケルブ【智天使】 一樹 千尋 
ヨハン・ヴァン・ベートーヴェン 奏乃 はると 
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 彩凪 翔 
ヘンデル 真那 春人 
小さな炎/マリア・ヴァン・ベートーヴェン 笙乃 茅桜 
宮廷楽長サリエリ 久城 あす 
クレメンス・フォン・メッテルニヒ 煌羽 レオ 
ゲルハルト・ヴェーゲラー 朝美 絢 
エレオノーレ・フォン・ブロイニング【ロールヘン】 朝月 希和 
モーツァルト 彩 みちる 
テレマン 縣 千 
ジュリエッタ・グイチャルディ 夢白 あや 

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フランス革命後のヨーロッパ。混沌とした世の中を生きるベートーヴェンがなぜ「交響曲第9番」を作曲するにいたったか、を描いた「fff」。

今、人気の座付き作家・上田久美子先生のお芝居を見るのは実はこれが2本目なのですが、最初に比べたらずいぶん「大劇場で絵的に魅せる」ことのできる作品になったな、と思います。

2020年はベートーヴェン生誕250周年で、この作品も本来であればその意味も含めて作られたものだと思うのです。

でも残念ながら状況が変わってしまった。

変わってしまったがために、混沌とした世の中を生きるベートヴェンの姿をリアルに感じる代わりに、劇場にいるのに「外」と変わらない閉塞感があったことが残念でした。

でもこういう状態でなければこういった「閉塞感」を描くのは単純にすごいなと思います。

また現実と理想、そして過去と夢か妄想の行ったり来たり感も個人的には大変面白く見ました。とりわけ終盤近くのナポレオンとのシーンは、演劇的な表現方が好きです。

でも問題は、見ていて「ドキドキしない」こと。驚きがない。ただ「かっこいい!」とキュンとするシーンや「息をのむ」シーンがない。心が高揚しない。

ただこれは何を「大きな劇場で上演される演目に求めるか」の個人差だと思います。

心情にひたひたひたと迫る芝居は、わたしはもう少し小さな空間で、密接に見て感じたいと思いますし、それはわたしが宝塚歌劇に求めているものとも違っていたのです。

もう一つ思ったのは、おそらく複数回見る方がこの演目的には面白いだろうということ。そう思うと、主演カップルのサヨナラ公演でこれをやることは意味があるのだろうと思います。主演カップルファンは何度でも通いますし、見るたび、違うものを見つける、回数を重ねることで何か自分の中に落ちてくるものがある、のは同じ芝居を見続ける喜びの一つだと勝手に思っています。

でも一度しか観劇しない身としては、これはつらい。

ましてや一度目で「気持ちがひっぱられた」と思わないと、通常はもう一度見ることはないわけで、その辺のバランスが「商業演劇」として難しいなとか、いろいろ考えてしまいました。

(そして宝塚歌劇的に「舞台写真、早くください」な気持ちになれないのも、若干問題な気もします。「謎の女」と「天使」のビジュアルがもう少し凝ってほしかった)

今回も録音上演だったわけですが、今回に限っては録音上演がいいと思いました。演出ではなくて、ベートーヴェン交響曲が多数使用されていたからです。

これが宝塚のオーケストラだと物質的にもあの音は出せないですし、かといって交響曲だけ録音が流されるのも不自然なので、その辺りが苦なく見られたことはよかったなと思う反面、オケボックスをうまく使った演出も含めて、本来だったらどういう演出だったのかも気になるところです。

さてそんな作品の主人公ベートーヴェンを演じる望海さん。悲壮です。独りよがりです。こじらせてます。うまいです。でもこんな望海さん、他の作品でもいっぱい見ました・・・。特にトップスターになられてからは、こういう役が多くて、結局望海さんの魅力があまり分からない人間には、芝居では歌以外の魅力に気づけないまま終わってしまったのが残念でした。

一方、毎回その歌と存在で心ときめかせてくれた真彩さん。なのに今回の「謎の女」はいつもの魅力がなく(そういう役なので仕方ないのですが)、もう一作、彼女の魅力を存分に発揮した作品を見たかったなあと思わずにはいられませんでした(涙)

唯一ピアノソナタ「月光」のメロディに歌声をのせてくるシーンが、ヴィジュアルと歌の両方を魅せてくれたかなと思います。というか、よくぞピアノの旋律にこんなにきれいに歌声を絡ませられるな!と感動。もうここで「なんかいいもの聴いたぞ」と思ったので、いろんなことには目をつぶります。

そしてナポレオンの咲ちゃん(彩風咲奈)が、かっこういい!ナポレオンといっても「ベートーヴェンの思い描いた男」の具現化なので、ちょっと人離れした英雄感がとてもよく似合っていました。

物語はもう一人ゲーテの彩凪翔さんも軸に巡るのですが、彩凪さんも最後にふさわしいしっかりとした骨太の芝居で、ベートーヴェン、ナポレオン、ゲーテの3つの軸がきちんと立っていたのが素晴らしかったです。

時期娘役トップスターになる朝月希和さんの優しく落ち着いた佇まいも素敵でしたし、その夫・ゲルハルトを演じた朝美 絢さんは、元からの美貌が一層輝きを増し、演技も歌も存在感も光っていて、新生雪組も楽しみになりました。

 

ところで概念の具現化は「エリザベート」以降、すっかりミュージカルファンには馴染んだのですが、その具現化された「概念」自身が、芝居の中で「自分はそうである」と言うのはどうなのでしょうか。分かりやすいといったらそうなのですが、「エリザベート」のトートを「黄泉の帝王」にしつつも、概念として捉えたい人には捉えられる方がわたし自身は面白いなと思いました。

ましてやフレンチミュージカル「ロミオ&ジュリエット」の「死」は言葉もなく説明もなく、でもその演出と身体表現だけで「死」だと気づかせたところが衝撃だったわけで、そこを概念そのものがセリフでしゃべっちゃうのは、なんかひっかかったわけです。

そのひっかかりも含めてもう一回くらいはみたいので、ライブ配信を楽しみに待ちます。そしてどうかそれまで、無事に完走できることを心から願っています。

 

そうそうショーシルクロード~盗賊と宝石~』(作・演出/生田 大和)は、もう何回か見たいです!

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でも芝居以上にショーは、本当に現実を忘れさせてほしい。

つまり「世界の終端」のリアルな「戦争」感をなんとか和らげる方法ないでしょうか。

それまで楽しくショーの世界に酔っていたのに、銃の小道具とあの衣装がなんかガツンと暗さを突き付けてくるので、その辺をもうちょっとまろやかにしてもらえると嬉しいなと思います。

個人的には「三人のタンゴ」も宝塚あるあるでいいのですが、真彩ちゃん主役なシーンがないので、ここを映画版RENTのこんなシーンだと嬉しかったかな。

(マークとジョアンが望海さんと咲ちゃん、モーリーンが真彩ちゃんで)


Tango Maureen - "RENT" the Movie

でも上海ナイトクラブシーンの紅いチャイナ服の咲ちゃんの格好良さは堪能できるわ、青チームは彩凪さんで、二人の対立がずっと同じ組で競い合いながら成長してきた歴史を感じさせてくれるし、フィナーレでは望海さんから咲ちゃんのバトンタッチもあるし、次のトップコンビ以外にもたくさんのカップルが次々出てくるし、全体には見どころありすぎてどうしたら、それこそ「早く舞台写真ください」な終始楽しいショーでした。

セットも衣装もきれいでしたしね。

個人的には生田先生はショーを引き続きどんどん作っていただきたいです。

 

1/14から関西圏も一部緊急事態宣言が発令されました。首都圏の緊急事態宣言も相まって、せっかくの完売チケットもキャンセルがあったりするそうです。

それをうまく活用できるシステムがこの間に構築されることを願いながら、最後の日まで少なくとも「やりきった」だけでも感じられるよう、祈っています。

2020年かんげき思い出し。

遅ればせながら明けましておめでとうございます。

新年2日と3日にブログのアクセスがめちゃくちゃ伸びててて、なにごとか、と思ったら、「ナウシカ歌舞伎」が放映されていたのですね・・・。

BS映らない環境を新年しみじみ悲しみました・・・。

しかし、「ナウシカ歌舞伎」は円盤が今月に発売されるので、それを楽しみに待ちたいと思います。

 

本当に「ナウシカ歌舞伎」が2019年に上演されてよかった。

そう思うほど2020年は観劇を趣味としている者として、とても哀しい一年となりました。日本はなんとか興業再開できている状態ですが、それも収益があがっていることはなく、ミュージカルの聖地ブロードウェイやウエストエンドでは再開もままならない状況が今も続いています。

トニー賞すらなかった2020年。この調子でいくと2021年もまだまだ劇場街には北風が吹き続ける状況ですが、できることは何かと考えても、自分のお財布が許す限り、興業に迷惑がかからないよう対策して見に行くしかない、しか現在は思いつかないので、2021年はお財布と体調が許す限りは関西圏の劇場に足を運びたいと思います。

 

  • 2020年観劇記録

★1月

宝塚雪組ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

劇団四季ノートルダムの鐘」

★2月

ミュージカル「フランケンシュタイン

★3月

歌舞伎「オグリ」

十二夜

★4月

宝塚花組はいからさんが通る」→7月に観劇

★5月

宝塚雪組「炎のボレロ/Music Revolution」→8月に観劇

360°アラウンドシアター「ウエストサイドストーリーseason3」×2回

エリザベート

★7月

欲望のみ

★8月

宝塚花組はいからさんが通る

★10月

ケムリ研究室「ベイジルタウンの女神」

フラッシュダンス

★11月

ビリー・エリオット

360°アラウンドシアター「るろうに剣心

ミュージカル「生きる」

★12月

ミュージカル「NINE」×2

 

チケット手配済みのものを記録のため打ち消し表示しました。

返金されても残るのは哀しみだけだと気づかせてくれた2020年でした。

そしてどんどん遠ざかる360°アラウンドシアター・・・。

再開されたら遠征するので、なんとか生き残ってほしいと心から願っています。

そんな中、2020年で一番うれしかったことはこれでした!

まさかのわたしの散財記録のこのブログをケラさまが読んでくださるとは!

SNS時代の恩恵を一挙に受けた気分でした。

あとは配信システムが構築されたことも嬉しい悲鳴でした。

とりわけ宝塚歌劇の千秋楽が映画館以外で配信で見られることは快適極まりなかったです。(かつては映画館のライブビューイングすらチケット取れなかったりしたので)

またNational Theatre at homeは自粛生活中の希望でした。無料で英国滞在者しか募金できなかったのが悔しいくらいです。

そんな at homeがはじまる前に映画館で観た「Fleabag」が、演劇の新しい可能性と表現力を見るようで震撼。哀しいコロナ禍ではありますけれども、このような新しい才能を生み出してくれる期間であったことを、将来に期待しています。

 

そんなわけでトニー賞はなかったけれども、わたしの2020年の勝手に賞レース。

  • 作品賞

ミュージカル「生きる」

再演ですが、関西では初上演ということでこれに。

元々の映画は見ていたのですが、こんな素晴らしいグランドミュージカルになっていることに感激しました。

そしてその理由の大部分を担うのが楽曲のすばらしさ。

この楽曲を日本でできるようになるには、まだまだ時間が必要なのかもしれません。

ケムリ研究室「ベイジルタウンの女神」

ケラさまご自身もおっしゃられているとおり、オーソドックスなロマコメなんです。

でもそんなオーソドックスなロマコメを「魅せて癒す娯楽作品」に仕立て上げた脚本含めすべての「作り上げてくれた方々」に感謝です。

  • 主演俳優賞

ミュージカル「生きる」鹿賀丈史さんに。

大空間でミュージカルを見る醍醐味を感じさせてくれた歌声と存在感に敬意をこめて。

よくも悪くも今後これができる俳優さんは少なくなってくると思うのです。

  • 助演俳優賞

宝塚花組はいからさんが通る」花村紅緒役 華優希さんに。

本来ならば「主演」なんですけれど、宝塚歌劇なので助演に。

本当に「紅緒さん」の魅力があふれ出してまぶしくて。強く、しなやかに、たくましい紅緒さんが舞台で息づいているのを見るのは、本当に勇気もらいました。

この「はいからさんが通る」とほぼ時期を同じくして「生きる」を見られたことが幸せでした。

  • セットデザイン賞

これもミュージカル「生きる」ですね。

全部よかったのに、ラストシーンのセットが、もう言葉にならないほど素晴らしくて。

そこまで敢えてのシンプルセットだったんだなと、あまりの精巧さにシーンと相まって涙しました。そしてこの作品は小道具も本当に作品に力を加えていて素晴らしかったです。

このようなミュージカル総力全力作品はなかなかない気がします。

それからキャスト違いの2パターン大千穐楽の配信も嬉しかったです!

Wキャストの醍醐味も味わえる作品でした。

 

賞には入れなかったのですが、宝塚宙組の「アナスタシア 」は、こういうブロードウェイミュージカルを宝塚で上演するのは正解、と思わせてくれたいい作品でした。

ブロードウェイミュージカル的には、可もなく不可もなくな作品なのですが、ミュージカル「生きる」でも思ったけれど楽曲の良さのレベルが違う。

その上で宝塚に似合うラブロマンスが主軸であったことが活きていました。

もちろんアナスタシア 役を演じた星風まどかさんだから出来た、ということもありますが、華と実力を兼ね備えたトップ娘役さんの代表作として、これからも宝塚歌劇で上演されることを願っています。

 

さて2021年ですが、大阪にも間もなく二度目の緊急事態宣言が出ようとしています。

一応、発売済みのチケットに関してはそのままでOKとのことですが、夜8時以降は外出自粛のお願いが出るので、心理的なプレッシャーからチケットの売れ行きが伸びないのが見えるようです(涙)

 

でもいつ見られなくなるか分からないので、「見たいものは見る」を今年は目標にしたいと思います。

ということで、観劇はじめは、昨年と同じく宝塚雪組から。

そしてポーの一族に続きます。

 

本年もどうぞよろしくお願いします。

業とトラウマに飲み込まれる@ミュージカルNINE

12/5(土)・12(土)17:00~ 梅田芸術劇場

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脚本アーサー・コピット
作詞・作曲モーリー・イェストン
演出藤田俊太郎

キャスト
グイド 城田 優
ルイザ 咲妃みゆ
クラウディア すみれ
カルラ 土井ケイト
サラギーナ 屋比久知奈
ネクロフォラス エリアンナ
スパのマリア 原田 薫
春野寿美礼
ラ・フルール 前田美波里
 
アンサンブル DAZZLE

原作はこちら

 

8 1/2 (字幕版)

8 1/2 (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 フェデリコ・フェリーニ監督の自叙伝的映画らしいのですが、残念ながら未見です。

しかしながら、これを元にしたミュージカルを15年以上前に見たことがありました。

演出はデヴィット・ルヴォー氏。

シンプルで贅沢なセットとカラーレスで豪華な衣装は今でも目に焼き付いています。

しかしながら内容はあまり理解できず、難しかったというのが当時の感想でした。

その後ミュージカル映画化されたときは、そのエンターテインメントぶりに逆に度肝を抜かれたものです。

(ちなみに今回気づいたのですが、映画にある「シネマ・イタリアーノ」はこの舞台版には登場しません。)

stok0101.hatenablog.com

 

NINE (字幕版)

NINE (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 さて、そんな作品を新進気鋭の演出家が演出するということで、今度はどんな舞台が見られるのかと楽しみでした。

 

あらすじ、なのですけれど、今回2回この作品を見て、あらすじさえも演出によって異なるのだなと思いました。

ルヴォー版が「苦悩する男の現実と妄想の曖昧さ」ならば、映画版は「ダメ男を取り巻く魅力的な女性たち」の話しでした。

そして今回はタイトルにつけたように「業とトラウマに飲み込まれる男」の話しでした。

 

そんなラテン男を城田優が好演。

今の日本ミュージカル界で城田優以上にラテン男の雰囲気を漂わせながらグイドを演じられる役者はいないと思います。

何より途中オペラっぽい歌い方をするシーンがあるのですが、そこの声の響き方が本当にいいんです。胸骨で響かせてそのまま声帯を通って伸びてくるような歌声にうっとり。本当、ずるいです。

その他キャストもインターナショナル的要素を持った役者が多く、言語もイタリア語、英語、日本語とごちゃまぜで上演されました。

その訳を「映画監督がカメラを回している」という設定を活かして、スクリーンに映し出すという手法を取ったのは大変面白い部分だったと思います。

またセットも、ローマのコロセウム的なイメージで大枠を組んであり、それをダンスアンサンブルのDAZZLEが回していたり、ローマの街の彫刻的にその間に入り込んでいたりしたのも、さすがでした。

ただやはり訳が出ると役者よりも文字を見てしまうし、文字を見ると役者がそのセリフを言っている途中なのに、最後まで何を言うかわかってしまうというデメリットも大きかったことは否めないと思います。

言語のごちゃまぜ感はフェリーニの映画っぽい、というような感想を見かけたので、そこを狙ったものだとは思うのですが、それならばいっそ最低限の字幕、少なくとも「カメラの向こうにあるスクリーン」が意味をなしているシーンのみでよかったのでは、と個人的には感じました。原語のままでも感じ取れるものはあると思うし、それが逆に歌と踊りが一体化したミュージカルの魅力でもあると思うのです。

女性キャストはそれぞれに魅力的でしたが、個人的には衣装にもう一工夫あるといいなと思ってしまいました。

特にグイドの妻・ルイザ。もともと小柄で華やかなタイプではない咲妃みゆちゃんが、Aラインのフード付きコートを着て、城田くんの隣に並ぶとまるで子どものように見えてしまったのが残念でした。うまいんですけどね、歌も芝居も抜群に。

逆にセリフはたどたどしかったのですが、すみれちゃんが、やはりスタイル抜群で城田くんの隣に立っても見劣りせず「ミューズ感」を出してきたのは正解だと思います。

リリアン・ラ・フルールの前田美波里さんもさすが、なのですが、ショーシーンに羽扇が登場したらもっとよかったのになあと思わずにはいられませんでした。

羽扇のあのふわふわっとした存在が、香りを、レビューの香りを運んでくれると感じるのです。そしてそのレビューの香りは、グイドの混乱をさらにかき乱すものとして必要だったのではないかなと。

むしろそういうメイン女性キャストよりも、ネクロフォラスのエリアンナさんと、スパのマリア 原田 薫さんの存在感が際立っていたのが面白く不思議でした。

そう思うと全体に凝っているのにヴィジュアル面で惜しいな、という印象で、いかに映画版が役者も含めてヴィジュアルとして素晴らしく整えられていたか、ルヴォー版がそぎ落とした美しいものを見せていたかを実感。

 

とはいえ、紗幕がビニール的な素材になっていて、舞台セットとカーテンに反射する劇場が溶け合ったものが映し出されたオープン前の演出は素晴らしく美しかったですし、各劇場によって違う景色なんだろうなと思うと、それぞれの劇場でみたいなと思ってしまいました。

 

いろいろと思うことがありましたが、今回の演出で、この「NINE」という作品への理解と面白みが増えたことは確かです。

なので、ぜひとも城田くんには10年後、ルヴォー版の「NINE」を再演してほしいな、と思います。グイドを演じるには年齢も今よりももっと合っているはず。

そしてそのとき、今回と比べるためにもDVDは予約しました笑

ミュージカル『NINE』2020年公演|梅田芸術劇場

1階席と2階席で見たのですが、映像で見るとどんな感じか、またそれも楽しみです。

魅力的な音楽とヒロイン、それだけで充分@宝塚宙組「アナスタシア」

11/21(土)15:30~ 宝塚大劇場

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制作
脚本:テレンス・マクナリー
音楽:ステファン・フラハティ
潤色・演出:稲葉太地

キャスト
ディミトリ 真風 涼帆 
アーニャ 星風 まどか 
グレブ・ヴァガノフ 芹香 斗亜 
マリア皇太后 寿 つかさ 
アレクサンドラ皇后 美風 舞良 
ヴラド・ポポフ 桜木 みなと 
リリー 和希 そら 
ニコライII世 瑠風 輝 
ロットバルト 優希 しおん 
オデット 潤 花 
ジークフリート 亜音 有星 

原作はこちらのアニメ映画になります。

 

アナスタシア (字幕版)

アナスタシア (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

ディズニーアニメと思われがちなのですが、監督はドン・ブルースとゲイリー・ゴールドマン。でも元ディズニースタジオで働いていたので、タッチも展開もディズニーっぽいです。
このアニメの主題歌「Once Upon a December」が1997年公開当時から大好きだったこと、消えた皇女アナスタシアの伝説に興味があったことで見に行きました。
ラスプーチンがディズニーヴィランズみたいな描き方をされていることに驚いた記憶があっただけに、今回はじめてミュージカル版を見てラスプーチンがいないことに驚愕。
残念ながら東宝版は見られていないので、ブロードウェイ版と宝塚版がどう違っていたのかはわからないのですが、アニメ映画よりももう少し時代背景や人物描写に踏み込んだ内容になっています。


1906年ロシア。革命にのみこまれたロマノフ王朝ボリシェビキによって王家は一家惨殺されたが、末の皇女アナスタシアだけが生死不明のままとなっていた。
それから10数年後、ボリシェビキが政権を握るサンクトぺテルブルク。世の中は不安定なまま、市民は貧しい暮らしを強いられていた。
記憶を失ったまま下働きをしていたアーニャと偶然出会ったボリシェビキのグレブ。
彼の誇りは父親がロマノフ王家惨殺に携わり、新しい世の中を作ろうとしていたこと。
そして自分もその意志を引き継いで、革命を進行させていくことを決意していた。
一方で、孤児だったディミトリとかつて貴族だったヴラドは、詐欺を働きながらその日暮らしをしていた。二人は、パリに住むロマノフ帝国のマリア皇太后が孫娘アナスタシアを見つけた者には莫大な報奨金を与えることを知り、大公女アナスタシアを仕立てあげ、パリへ行き、報奨金をもらおうという計画を立てる。
アーニャは「何かが自分をパリへ呼び寄せている」と感じていて、パリへ行くために出国許可証を取りたいと考えていた。ディミトリなら出国許可書を取るのに協力してくれるというウワサを聞きつけ、ディミトリとヴラドの元にやってくるアーニャ。
アーニャを「大公女アナスタシア」に仕立て上げることにしたディミトリとヴラド。計画は順調に進んでいるように見えたが、本物のアナスタシアならば殺さねばならないとアーニャに告げるグレブ。
さらに出国許可証の値段は高騰し、なかなかロシアを出ることができない三人。あきらめかけるディミトリにアーニャは信頼の証を見せ、三人は一路パリ行きの列車に乗る。それを追いかけるグレブ。三人は無事にパリでマリア皇太后に会うことができるのか・・・。

 

アニメ映画が大好きだったくせに、2017年度のトニー賞の映像とその受賞結果を見て、舞台には全く期待していなかったのですが、なかなかどうして、大変面白い作品でした。
何よりやっぱり音楽がいい!
主題歌がキャッチーで美しいし、その他のミュージカル化によって付け加わった曲も豪華でいい曲揃いです。
そして音楽が良ければミュージカルはほぼほぼ成功しているのです。
哀しいけれど、日本はやはりまだまだ「ミュージカル曲」の作曲には長けていないのだなあと思わざるを得ませんでした。
エンターテインメントミュージカルとしては、見ごたえも、聞きごたえも楽しみも多いにある良作だと思います。

そしてこれを見ごたえのあるものにした最大の理由は、タイトルロールを演じた星風まどかさんでしょう。
この作品で初めて拝見したのですが、芝居のときの声がいい!男役音域に合わせて歌の音域が高くなってしまうのが残念なくらい、ステキな声でした。もちろん高い音域の歌も歌いこなし、かつ強く可愛く気高いアーニャにすっかり魅せられてしまいました。

まどかさんに比べると他のメインキャストの歌が劣ってしまうところが残念なのですが、コーラスは絶品。オケなしの状況がつくづく残念だったので、またこのタイトルロールを演じられるようなトップ娘役さんが登場されたら、ぜひ再演してほしいです。

 

歌や芝居はともかく、アーニャが物語の中心にいるのに、真風さんの余裕のスターっぷりがさすがです。町娘の「あんたがハンサムじゃなかったらこなかったわよ」みたいなセリフがあるんですけど、思わず「そうそう、納得」と思わせる、これこそトップスターなのです。
さらにとあるシーンの歌で「孤児である淋しさ」を感じさせたのがいい。こういうちょっと母性本能をくすぐるような役をやらせると真風さんは本当に抜群ですね。

 

ヴラドの桜木みなとさんは、本来もっと年上の役をがんばって演じていたと思います。真風さんとの芝居の呼吸の合い方もよかったし、役柄的にも場を明るくしてくれていました。
そして本来であればヴラドと同じく、もっと年配の女性だったはずのリリーを演じていた和希そらくん。男役なのですが、見事な女役っぷりで歌もダンスも素晴らしかったです。
寿さんのマリア皇太后も自然で威厳もあってステキでした。

パリ・オペラ座で「白鳥の湖」を見るシーンがあるのですが、ここでロットバルトを踊った優希しおんくんがうまい!

コーラス、歌、ダンスとそれぞれ得意な人が得意分野を披露できるので、役は少ないとはいえども、割とこの演目は宝塚歌劇にあっていると思います。

 

ところでセットも衣装も色合いはさすが稲葉先生でキレイだったのですが、 

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これ↓↓↓を見るとやはりセットや衣装の予算の違いを感じてしまいました(涙)

アニメ映画を見直すと、アーニャは「パリで会いましょう」と書かれたネックレスを子どもの頃から身につけていたのでパリを目指した、となっていて、この方が「なんとなく記憶のどこかでパリに行きなさいと言われている気がする」より納得でした。

さらに子どものディミトリが、皇女アナスタシアを救おうとした際に、マリア皇太后からアナスタシアに贈られたオルゴールを拾ったというアニメ版の設定の方が、蚤の市で買ったものが何故か本物だったより自然な気がしました。
この辺はきっと元々のブロードウェイ版はそうなっているだろうから変えられないとは思うのが残念。


でも分かりやすいアニメ映画よりも、ラスプーチンを排しグレブにその部分を変換したことで、1つ踏み込んで「人間」を描いているのには好感を持ちました。
 
もう一つ個人的に残念だったことはフィナーレでしょうか。
主題歌「Once Upon a December」はいわゆるウィンナワルツのリズムなので、普通のデュエットダンスよりも、がっつりペアダンスを見せられるとよかったのになあと思います。

それにしてもロシアを出るときの「We'll Go From There」は曲調は切なげなのですが、今回聞いた歌詞ではとても宝塚卒業のときに歌うとまた違う意味で似合うと思ったので、著作権の関係で難しいだろうけれど、これからも歌い継がれていくといいなあと思いました。

 

ところで本来、初夏頃に上演されるはずだったこのミュージカルなのですが、季節感的には今の時期の方がよいのです。

主題歌も「Once Upon a December」、12月の観劇はピッタリ!

12月公演のチケットは11/28(土)から発売されますので、ぜひご覧になってみてください。

こちら↓↓↓から簡単に買えますので、本当にぜひ!

https://www.takarazuka-ticket.com/sp/index_general.html

見て損はない作品です!