こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

ムサシ

4月11日(土)18:30~ 彩の国さいたま芸術劇場
作:井上ひさし吉川英治宮本武蔵」より)
演出:蜷川幸雄
音楽:宮川彬良
出演:藤原竜也 小栗 旬 鈴木 杏 吉田鋼太郎 辻 萬長 白石加代子 ほか

まずは幕開きの蜷川幸雄のエンターテイメントアートがやはり美しかった。
暗転の中に徐々に浮かび上がってくる、大きなオレンジ色の光。大きな夕日と描かれた海はシンプルに美しく、冒頭の場面で一気に観客を引き込む技術はこの人を置いて右に出るものはいないと思う。
その後の転換で禅寺に移るときの、音楽に乗せて、竹林が回っていく様子は、幻想的に美しく、溜め息ものだった。

しかしながら、私の方の巌流島の戦いや、武蔵や小次郎に対する知識があまりないことと、時代劇的に書かれた日本語がなかなかに聞き取りにくく、理解しがたく、長々と説明される登場人物の人となりなんかを聞き取っていくのは、結構骨の折れるもので、最初はただただ長く感じさせてしまったのが残念だ。

始まってみると、これはどういう話かというと、全くもって喜劇だった。演出の妙もあって、長いながらも、いっぱい笑いながら楽しく見れたのは確か。
ただ、その端々で、割と分かりやすい形で、「恨みは新たな恨みを生むだけ」とか「命は大事にしようぜ」とか、そういうキャッチーなメッセージがババーンと出ていて、まあ、こういうものを人気役者がやるのは、ディズニー的なポジティブメッセージを嫌味なく載せるという意味では価値があるのかな、と思いつつ鑑賞していたら、最後にちょっとしたドンデン返しがあった。
ドンデン返しそのものは、これでいっちゃう?的なありきたりなもので、上記のキャッチーなメッセージを強調しただけなのだけど、最後の最後のセリフが、とにかく秀逸だった。
最初に聞いているはずのその言葉が、これだけの時間をかけて、あの手この手で語られた上で、結びにもってこられると、同じ言葉なのに、重さと響きを持って感じられ、言葉のプロ、というのはこういうことなんだと深く感じ入った。
ドンデン返しがあることで、蜷川先生の転換の演出も、振り返ればただ美しいだけではなく、そこでそういうイメージを伝えていたのか、と改めて感嘆することにもなり、二重にやられた感があって、見ている最中よりも終わってから振り返ると、面白みが伝わる、そういう作品だった。

主役2人を除く、役者勢は技巧者ばかりで、文句なく、主役2人も、時代物の所作なんかもそれぞれにきっちりと健闘していた。特に個人的に初めて舞台上の藤原竜也を見たのだけど、そのピュアな雰囲気は、なかなか役者の個性として光るものがあると思う。けれども今回はそのピュアさが35歳を演じるには、何分若すぎたのが残念である。