私は舞台を見るほどには、映画館で映画を見ません。(まあ最近は対して舞台も見てないけれど)
なので、映像的楽しみ方、というのは本当に残念なことに、身についていないのです。
そして、それを残念だなあと痛感したのが、今回の「ラ・ラ・ランド」でした。
これ、多分私のようなミュージカル好きでも好き嫌いが分かれる気がしております。
私はどっちか、と言われたら、ミュージカルとしては好きじゃないけれど、映画としては好き、でした。
昔のミュージカルや映画へのオマージュも存分に含まれているということで、ストーリーはお約束のあれです。
ボーイ・ミーツ・ガール
ハリウッド内のカフェで働きながら、女優目指してオーディションを受け続けているミアと
ピアノの才能はあるのにジャズオタク過ぎて世間に迎合できないセバスチャン(セブ)が
出会って、最初はいがみ合いながら、恋に落ちて、そして、二人の環境が変わり始めて…
という素晴らしいMGMミュージカル映画へのオマージュな物語です←褒めています。
そうです。こういうボーイ・ミーツ・ガールだけのストーリーをいかに音楽と踊りで魅せるものにするか、それこそがミュージカルの神髄だと私は勝手に思っているので、この話は大好物のはずなのです。
なのに、前半乗り切れなかったのは、音楽はともかく「踊り」で魅せてくれなかったことにあるのだと思います。
まあ、最初のオープニングは、見たとき、ええーこのレベルなの、と泣きそうになったのですが、同行者の意見やら聞いて色々考えなおし、あれは「古き良きミュージカル」のプロローグなのだ、とやっと割り切ることができました。
映画の舞台がハリウッド、しかも撮影セットの中、ってことで、この点は明らかな「雨に唄えば」
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へのオマージュなんですよね。
そして、「雨に唄えば」の有名なダンスシーンをオマージュしたダンスシーンもあるんです。
でも、このシーンが、私を最大にがっかりさせたのです。
この映画の監督は、ミュージカルの手法、昔のミュージカル映画は好きかもしれないけれど、ミュージカル自体には興味がないんじゃないかと思いましたです。
真実の程はわかりませんけれど。
なぜかというと、それこそ同行者が例に出してくれた「ポンヌフの恋人」
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という映画があるのですが、この中で主人公たちがお祭りで酔っ払っちゃって、昂揚してわけのわからない踊りとも言えない踊りを踊りだすというシーンがあります。
踊る、という行動は、気持ちの高ぶりの上にあるものなんですよね。
「雨に唄えば」の有名なダンスシーンも、ドンの気持ちが高ぶって、そこから踊りになるわけで、だから、見ていて、私も高ぶるんですよ。
なのに、「ラ・ラ・ランド」では、全然乗り気じゃないミアとセブが、はい踊りのシーンだから、って感じで踊っちゃう。
これが私が監督は実はミュージカルが好きってわけじゃないのかも、と思った理由です。
概念的な「ミュージカル映画」ってこういう感じで唐突に踊っちゃうものなんでしょ?ていうのが目の前に現れた感じなのです。
映像的に「必要なダンスシーン」だったのかもしれないです。
それは、私が映像を読み取ることができなかっただけなのです。
でも、入るんでしょうか、必要なんでしょうか、こんな残念なダンスシーン。
哀しい気持ちが抑えられない。
だって、「雨に唄えば」のジーン・ケリーさまのこの素晴らしいダンス。
このシーンだけ切り抜いても何度もみちゃうくらいのダンスシーン。
そして、gleeでは、このダンスシーンの素晴らしさをこんなに見事にオマージュしてくれたのに
(てか、セブ役、マシュー・モリソンじゃダメだったのかなあ。ピアノシーンの方が映画なんだからいくらでも吹き替えられると思うのですが)
いやいや、ミアもセブもダンサーじゃないから、という声もあるかと思いますが、踊れなくても振付と雰囲気で素敵なダンスシーンは生み出せるのです。
例えば、ハイスクール・ミュージカル・ザ・ムービー
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の「Can I Have This Dance?」のように。
(何度見てもこのシーン、可愛い!私の踊りたいシーン、いまだにナンバーワン!)
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の「(you're)Timeless to Me」のように。
(このシーンは舞台よりも映画が好き!ダンスシーンの良さがすごく出ていると思う)
そして、この二つのシーンを作っているのが、両方とも監督が振付家なんですよね。
このたび、私、「ラ・ラ・ランド」とトミー・チューン版「グランドホテル」を見て、はっきりと自覚しました。
私はダンサーが作ったミュージカルが好きだ、と。
ダンサーが作るミュージカルには、踊りのシーンへの違和感がない。
そして、そのダンスシーンだけ切り取っても見事なシーンになりうる。
これが私にとって、ミュージカルを見るうえで大事にしていることなんだなあと気づかせてくれました。
と、ここまで散々文句を言っていてなんなんですが、ダンスシーン以外の「ラ・ラ・ランド」はめっちゃ楽しかったし、切なかったし、きれいでした。
ハリウッドセット内、なので、もうセットがきれい。
そして、衣装がビビットでカラフルで可愛い。
ミアがセブに会うため映画館に駆けつけるシーンがあるのですが、そのミアを照らす光とミアのグリーンのドレスとペンダントと目の色が本当に美しかったです。
そして、ミアもセブも夢を追っているのですが、これが私の物語的な涙腺ポイントでした。
セブが生活のため、したくない音楽を演奏しながらも、その音楽が観客に喜んでもらえることに幸せを感じたりするのも、ああ、そうだよなあ、自分のやりたいものとは違っていても、誰かを少しだけ幸せにするというのは、自分を幸せにしてくれるよなあとしみじみ感じました。
何より、ミアが夢に挫折して、実家に帰るくだりがあるのですが、そのミアの実家の部屋がミアの夢で溢れていて、ああ、ミアはこんなに芝居が好きなんだ、と思うとこらえきれませんでした。
6年がんばった、とミアがセブに訴えるシーンあたりで、私の中には「コーラスライン」が鳴り響きはじめました。
夢を追いかけるのに期限を決めてた?とディアナがみんなに聞くシーンです。
ミアは期限は決めていなかったけれど、でも、6年もがんばったのです。本当に本気で。
たかが6年かもしれません。でも私にとっては「6年も」でした。夢だけ食べるのは、そんなにラクじゃないのです。
だからもうこれ以上は無理なんだと訴える彼女の姿を見ていると、ただただ切なかったです。
そして、たぶん、ミア的には最後だと思って挑んだオーディションで彼女が歌う歌が「コーラスライン」の「WHAT I DID FOR LOVE」的な意味合いの曲。
この辺で私の涙腺は崩壊を迎えました。
そして、やっとミュージカルだと思えました。
あの歌だけが、ちゃんと物語の流れの上にありました。
ミアの感情の上にありました。
セリフでは語れないものでした。
言葉にできないものが歌になって、ダンスになるのが、ミュージカル、なんじゃないでしょうか。
そして、ラストがいいです!
ええ、ご都合主義だと言われようと、いいじゃないですか。
虚構の世界くらい、ほろ酔いになっていいじゃないですか。
人生はいくつかの分岐点があって、そして、決して一人で成り立っているわけではなくて。
だから、セブにもミアにもお互いがいたから、今こうしているわけです。
もし、あのまま、そうだったら、というのがちょっと変化して、うわーと一気に見せられるあのラストが私は大好きです。
ところで、やっぱり気になるので振付家マンディ・ムーア氏について調べてみたら、大好きなSo You Think You Can Dance?の振付家だった方なのですね。私はSeason2しか見ていないので、知らなかったのですが、そこから振付家を選ぶなら、ぜひともタイス・ディオリオ氏にお願いしてほしかったです。
ニューヨークで生まれ育って、ずっと生の舞台を見て自身もオーディションを受け続けている彼なら一体どんな振付をして、素敵なダンスシーンを作ってくれただろうと思うと、やっぱりダンスシーンに限って、「ラ・ラ・ランド」は惜しいな、とは思いました。