11/19(土)18:00~ 京都劇場
【作・演出】三谷幸喜
【出演】
鈴木京香 尾上松也 ウエンツ瑛士 新納慎也 小澤雄太 今井朋彦 小林隆(休演) 藤本隆宏
シルビア・グラブ 峯村リエ 秋元才加 井上小百合 中島亜梨沙 大野泰広 荻野清子 浅野和之
三谷幸喜さんが劇団「サンシャインボーイズ」時代に作った作品ということで、最後の上演からも28年経過しているとのことです。
舞台監督が主役のいわゆるバックステージ物なのですが、28年経過して舞台監督役が男優から鈴木京香さんに変更になったところが今回の見どころだったのかもしれません。
そして、その28年の間に三谷幸喜さんはテレビドラマでも大人気の脚本家となりました。
ということで、おそらくこの舞台の内容も「三谷幸喜さんらしいシチュエーション・コメディで、とある舞台公演開始前から開始後まで、色んな困ったことがおき、その場で苦心の対処をして何が何でも公演を持続させていく(ショウ・マスト・ゴー・オン)、タイトルどおりのコメディだった」と言えば、だいたいの方がだいたいの想像がつくと思います。
今となっては、多くのドラマなどを見る人にとって当たり前になった笑いも、劇団時代にこれを見られた方は、なんて才能ある脚本家が登場したんだろう、と思われただろうなと感じました。
ただなぜか個人的に爆笑、とまでいかなかったのは、わたしが慣れてしまったからなのか、小林隆さんが休演されていて、その役を三谷幸喜さんがやられたからなのかは分かりません。
わたしが一番面白かったのが、その小林隆さんの休演を知らせる三谷幸喜さんの開演アナウンスだったからです。
とりあえず、三谷幸喜さんは京都劇場は初舞台で、わたしの観劇日は三谷さんの役の完成度は96%だったそうです。
ここは本当に爆笑でした。
そして、東京公演で無事、小林隆さんが復帰されたかと思ったら、東京公演初日に今度はシルビア・グラブさんが体調不良で休演され、シルビア・グラブさんの役を三谷さんがやられるという、文字通り「ショウ・マスト・ゴー・オン」していることにしびれました。
小林隆さんの役は、前日舞台監督から叱られて「仕事行きたくないっ!」状態になった息子の代わりに自ら手伝いにやってくる父親、だったので、三谷さんが演じられてもそれほど違和感はなかったのですが(三谷幸喜という存在感は強すぎたけれど)、シルビア・グラブさんの役は下記の映像のように、歌も歌う舞台役者の役なんですよ!
いやー、これはこれで見てみたかった!
(シルビア・グラブさんはやっぱり抜きんでて素晴らしかったので、一度見てから三谷さんバージョンなら見たかったです。
あと、劇中劇「萬マクベス」もめちゃくちゃ見たい!全貌が知りたい!笑)
しかしそれは置いておいて、昔シアター・クリエのこけら落とし公演を見たときは、本当に面白くて終始、顔がニヤニヤして笑って楽しかったことを思うと
今回はそこまでではなかったのは、もともとが初演俳優へのアテガキからはじまっているからなのかな、とちょっと思いました。
初演を見ていないのでなんとも言えないのですが。
もちろん今回の舞台も俳優と時代にあわせて変更されているのは感じました。
普通にスマホとか出てきますし、スタッフの携帯着信音トラブルとかもありました。(最後の上演の1994年には、まだそこまで携帯電話がはびこっていなかった記憶です。わたしは当時高校生だったのでまだ持っていませんでしたし、ポケベルがどんどん進化していった時期だったような気もします)
何より舞台監督を鈴木京香さんが演じるということで、出演前にはナーバスで弱気になる横暴主演俳優(尾上松也さん)を、舞台監督が母親が子どもをあやすようにして舞台へ送り出すシーンは、寧ろ初演はどんなのだったろうと気にかかりました。
また舞台監督の恋愛関係も絡まってくるのですが、ここも売れないダンサーで元医大生という設定がどうなっていたのか、多分、主演俳優に注射する、というくだりはあると思うので、気になるところではあります。
多々気になるところはあるのですが、それでも、特に京都劇場は客席外が割と簡易な造りになっているので、客席に入ってすでに舞台上に設置されているセットを見たとき、「え、劇場の裏側に間違って足を踏み入れちゃったかな」と一瞬惑ってしまうような、カンペキな舞台裏がそこにあっただけで感動してしまうので、バックステージものはずるいです。
強引すぎる理屈と手段でなんとかかんとか終演までこぎつけ、拍手を浴びる。
しかし舞台の直接的な称賛は役者に与えられるもので、どれだけ裏でスタッフががんばっているかは、本当は観客は知らない。
拍手が切なくなる日もあったりする。
それでも脚本家に、自分の舞台をやるときはぜひあなたに舞台監督を、と言われるとき、思わず涙しました。
脚本家も演出家も、もちろん見えない存在ではあるけれど、作られたものに対して評価はある。音楽やセット、照明、衣装デザインなどは注目する人は注目する。劇場内スタッフだって、観客からの感謝や称賛があります。
でも舞台監督や本当に舞台裏で働くスタッフは、観客からは評価の対象ではないのです。
だからこそ、そこに光を当てた三谷幸喜さんはやっぱりすごいなと。
そして役者の皆さんたちは、普段見ている彼らの姿を見ながら、誠実に役を作られ、演じられているのが伝わってきました。
(それにしてもスタッフ用公演黒ジャンパー&黒ジーンズを着ている鈴木京香さんの美しさよ!そして秋元才加さんも最後の服よりこのスタッフ服が似合っている事実。中嶋亜里沙さんのパンツスーツ姿も美しくて、格好いい女性たちに痺れました。そしてウエンツ瑛士くんの出過ぎず、引きすぎないちょうどよく、確実な演技も光りました。他の男性の役がみんなクセ強めなので、余計にナチュラル感がよく見えたのもあるかもです)
そこを感じてからの最後のオチ。
これが多分仕事をしている人の多くが共感できるものじゃないでしょうか。
わかる。本当にわかる。
しんどいけれど明日もちょっとがんばろう、と思えるよい娯楽作品でした。