こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

悪夢か、美しい幻想か@ケムリ研究室「眠くなっちゃった」

10/26(土) 17:30〜 @兵庫県立芸術文化センター 中ホール

f:id:morton:20231102105801j:image

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演及び配役

ノーラ 緒川たまき

リュリュ 北村有起哉

ヨルコ他 音尾琢真

ナスカ他 奈緒

シグネ他 水野美紀

バンカーベック近藤公園

ブービー/モデスタ他 松永玲子

ダグ/ナイフ投げ師他 福田転球

アルマ他 平田敦子

アーチー他 永田崇人

サーカスの道化師他 小野寺修二

シグネの夫他 斉藤悠

サーカスの道化師/修道女 藤田桃子

ロミー他 依田朋子

ゴーガ他 山内圭哉

ナンダ/マグースト(門番)他 野間口徹

ウルスラ他 犬山イヌコ

ボルトーヴォリ他 篠井英介

チモニー他 木野花

声の出演:高野志穂 武谷公族 小松利昌 日暮誠志

 

事前に「レトロなSF的作品」という情報は入れていたのですが、実際見てみると、確かにSF的かもしれないけれども、わたしが見るようになってからのケラさま作品はほとんどが「国も時代も特定されないどこか」ということが多かったので、今回の作品も特別に「SF感」ということを感じることはありませんでした。

まあ確かに「目に見えない支配者」と管理された「荒廃した社会」はSF的なのかもしれない。でもそれは今わたしたちがいる現実のようでもあって、その部分では少し背筋が凍るようなところもありました。

 

物語は赤ん坊を抱いた母親が、「管理局」の門番に「赤ん坊にミルクを」と訴えるところから始まります。

びっくりするくらい、よくあるシチュエーションからはじまった物語は、混乱するくらいさまざまな要素と絡み合っていきます。

だから多分、観客ごとに受け取るものや印象に残っている部分が違うだろうなと、たいていの演劇はそうですが、それをより感じる作品でもありました。

わたしの場合は、いつも通りすばらしいプロジェクションマッピングのオープニングが終わった後、緒川たまきさん演じるノーラが「キャバレー」のサリー

のような衣装でそこに立っていたところから、受け取るものがそちらになったような気がします。

まずここの緒川たまきさんが本当に色っぽく美しかった。美しく哀しみを湛えていた。

彼女の苦悩の1つがここで示されて、それが悪夢になって現実とつながっていく過程で、彼女の常識から少しずれたような純粋さ、真っ直ぐさがある性格に魅せられます。

ノーラをはじめ、彼女たちが生きる現実は厳しいけれども、その中で恋なども描かれ、どんな状況であれ人の心は変わらないのだなあと思ったりしました。

ある時から「記憶が消えてしまう」という現象が発生するのですが、いびつに依存しあった母と息子の、息子から「母の記憶」が消されてしまったとき、母親はもう生きていけなくなってしまう。そしてノーラの元夫とのシーンでやり取りされるように「忘れること」は大切かもしれない、と提示されます。でも忘れた方の息子も「親子の絆」という鎖から解放されながらも、良くなっているようには見えない。人の心の弱さというのを見ながら、猥雑なシーンもあって、世界が少しずつ変わっている様子は、やっぱりなんとなく映画の「キャバレー」を思い出したのです。

 

ケラさまの作品は本当にいつも舞台セットも素晴らしいのですが、今回はそれが特に、芝居だけではなく、音楽にも乗って踊るように変化していて、ある種ショー的、ミュージカル的に見えたせいかもしれません。

それにしても、その二つのシーンを行ったり来たりするセットのリズムは本当にすばらしかったです。

 

物語は、神の否定から自由を知り、でもそれゆえに何か支えどころを失っていったり、普通の暮らしが一変したりしながら、なんとなく進んでいき、全員がどこか狂気を孕んでいる状態で、どんどんと世界が歪んでいき、1人の欲望が世界の一部分を覆いつくしてしまいます。

そしてその魔の手はノーラにも降りかかる。彼女はリュリュに押し切られる形で逃亡生活を送るのですが、今年大ヒットしたドラマ「VIVANT」

の監督が話されていたように「何かから逃げる」というのは見ていて単純に面白い。ドキドキします。

そんな吊り橋効果もあいまって、ノーラとリュリュはお互いに同じだった部分を知り、心を寄せていく。

さらにこの行程で映し出される逃亡先のどこかの港のセットがまた、さびれているのに、どこか美しいのです。

ただ現実は容赦ない。リュリュもノーラもそこから逃げられることはないのです。

最終的に責任を取らされるリュリュ、そして記憶を奪われるノーラ。

でもそのノーラの記憶が、ノーラの記憶を欲しがった男を破壊するのです。

破壊するほどのノーラの記憶、そこまでの人生の凄絶さを感じるからこそ、あの史上最強に美しいシーンと最後のセリフが、これまで見ていた全ての出来事を忘れることはできないけれど、浄化される気がしました。

眠ると悪夢を見るから眠れない、眠りたくないと訴えていた女が、記憶を奪われた今、やっと純粋に眠れるのだ、と思うと、それはとても幸せなことのような気がして、見終わった後は、なんとなく幸せな気持ちに満ちていたのが本当に不思議なお芝居でした。

 

キャストは本当にみんな魅力的で、その中でも水野美紀さんが終始格好良くて、緒川たまきさんのノーラとすごくステキな対比を放っていたと思います。

いろんなことが起こる芝居だからこそ、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目を見たら、それごとにいろんな感想を感じそうな作品でしたが、その1回目を大事にしたいような気持ちにもなるあたり、本当にうまいなと思います。

 

そして、ボルトーヴォリの歌う「九官鳥の歌」の絶妙さといい、雨の中のノーラとナスカのダンスシーンも美しさといい、美術さえも音楽とリズムとこれほど溶け合っているのだから、ケラさんの「ミュージカル」も一度ぜひ見たいなと改めて思いました。

単純なものを少し複雑化することによって起こること@花組「鴛鴦歌合戦」「GRAND MIRAGE!」

8/5(土)15:30~ @宝塚大劇場

f:id:morton:20230815144437j:image

スタッフ
原作 マキノ正博監督・映画「鴛鴦歌合戦」(脚本・江戸川浩二)
潤色・演出 小柳奈穂子
作曲・編曲 手島恭子
振付 尾上菊之丞
殺陣 清家三彦

キャスト
浅井礼三郎    柚香 光        
お春    星風 まどか
峰沢丹波守    永久輝 せあ
おとみ    星空 美咲
道具屋六兵衛    航琉 ひびき
遠山満右衛門    綺城 ひか理
藤尾    美羽 愛

蓮京院    京 三紗        
蘇芳    紫門 ゆりや        
天風院    美風 舞良        
麗姫    春妃 うらら        
平敦盛    帆純 まひろ        
秀千代    聖乃 あすか      

f:id:morton:20230815144454j:image 

原作映画はこちらになります。

主演の片岡千恵蔵さんの急病ですごく出番が少なかった結果、峰沢丹波守を演じているディック・ミネさんが最初の方から「ぼーくはわかーい殿様ー🎵」と歌い踊って登場して格好良く、さらにヒロイン・お春ちゃんを見初めてから、お春ちゃんと礼三郎のシーンになるので、わたしはてっきり峰沢丹波守(殿様)が主役だと思って見始めて、途中から違うことがわかり戸惑ったくらいでした。

とはいえ、映画はボーイ・ミーツ・ガールの「これぞザ・ミュージカル映画」という、楽しいもので、時間も69分と素晴らしい仕上がりになっています。

未見の方には、ぜひ、映画の方もおススメしたいです。

 

さてこれを宝塚歌劇でやるぞとなって、「ピッタリ!」と思ったのですが、いざ大劇場公演で上演となると短さと役の少なさが命取りになってしまったのかな、と思います。

今回プロローグとフィナーレも付けているので、役は少なくとも映画そのままでやってしまうという手はあったと思うのですが、宝塚歌劇化にあたって、お家騒動部分を付け足して、役も増やしています。

それによって主役の礼三郎への色づきが濃くなって、こういう当時のミュージカル映画独特のひたすらハッピー感がちょっと薄れ、シリアス味が増えてしまったのが、個人的には残念だなと思いました。

礼三郎とともに、この脚色によって損したかなと思ったのが峰沢丹波守(殿様)。

映画ではあんなに格好良かったのに、お家騒動を起こす原因を背負わされて若干「バカ殿様」の方にふってしまったのが本当にもったいない。

そして「めぐり会いは再び」でも、紅さん演じる従者役がやたらと高い声で演じていたのを思い出すと、今回、殿様をこういう高い声で演じるように演出したのは小柳先生ではないかと思ってしまいました。

世捨て人の雰囲気漂わす色男・礼三郎と、気さくでかっこいい殿様から思われるヒロイン、の図がちょっと崩れてしまったのが残念だったのです。

とはいえ、途中の骨董説明のくだりで平敦盛を登場させて、ショーのような見せ場に仕立て上げたのはさすが!また平敦盛役の帆純まひろさんもその美貌を存分に活かして、美味しい見せ場となっていました。

そして何より星風まどかちゃんが、その歌の実力と個性を存分に活かして、ひたすらかわいかったのが尊かったです!

おとみちゃんの星空美咲さんも歌もうまく、かわいくて、二人でケンカするシーンはかわいいが爆発していて大興奮!二人とも映画の女優さんの言い回しや歌い方などもよく研究していて、本当にチャーミングで素晴らしかったです!

なので、東京公演は永久輝さんの殿様がもうちょっと「かっこいい」寄りに演出しなおしてもらえると嬉しいのですが、なかなかそうもいきませんよね、残念。

それから映画を見ている時は「鴛鴦歌合戦」というタイトルの意味が全くわからず(主題歌ではそれっぽいことが歌われるけれど)、まあこういう踊って歌いあったりしながら結婚してハッピーエンドのエンタメ映画だよ、くらいの意味でつけられたと思っていたものに、がっつり意味を含ませてきたのがいいのか、悪いのか。

歌合戦も多分、登場人物が歌いながらケンカしたりするのが「歌合戦」であって、劇中で述べられるような「歌合戦」という試合的なものは原作映画にはなかった記憶。その辺りも変に気になる造りになっていたのが、ちょっぴりもやりともしたのでした。

でも全体に明るく楽しく、気軽に見られる演目は大事!

お正月公演にこっちのほうがよかったかなあともちょっと思ってしまいました。

 

そしてショー、というかレビューなんですが、これがね、昭和から平成初期に岡田レビューを浴びるように見ていた層と、そうではない層と評価が真っ二つで、それはそれでとても興味深かったです。

わたしは割と、がっつり見ていた層に振り分けられると思うのですが、特に岡田先生のレビューが当時から好きだったわけではなかったので、なるほど、苦手な人の気持ちもわかるなと思いながら見ていました。

とはいえ各場面、既視感がありすぎて、かつ歌も耳馴染みがすごすぎて、そうなるとある程度の満足感を持って見てしまうのですよね。

ただ既視感以上に違和感も感じました。わたしが見ていたころのロマンティックレビューは映像も含めてこんな安っぽい大道具はなかったし、衣装も「マイナスの美学」とは真反対の「盛れるだけ盛る!それがレビューだ!」くらいの重厚感漂うものばっかりだったので、初めて中日劇場で「ル・ポァゾン」再演

stok0101.hatenablog.com

を見たときのようなハード面の弱さに対するがっかり感は否めませんでした。

(シボネー・コンチェルト初演は見られていないのですが、「ラ・カンタータ」では見ていて、この振付を今のダンスを学んだ得意な人たちがやると辛いな、という思いの方が強かったです・・・。そういう意味では「Amour de 99!!-99年の愛- 」で見た「シャンゴ」再演はそう古く思わなかったあたり、パティ―・ストーン氏の振付が優れていたのかなと思います)

これもどうしようもないとはいえ、プロローグの白ベースの虹色がかった衣装に包まれた柚香光さんが、それはもう美しかっただけに、中の人たちはこんなに美しくなっているのに衣装がなぜ・・・、とただただ残念。

デュエットダンスもせっかく音楽が「キスミーケイト」の「So in Love」だったのに、乗り切れないまま終わりました。

パステルカラーのお衣装に娘役さんのつばの大きな帽子は、多分「シトラスの風」以降のロマンティック・レビューだと思うので、その頃にはほとんど宝塚から離れていたわたしには、そこにもトキメキを抱けなかったのでした。

ただ恐ろしいのは、帰っても歌える主題歌!気づいたら「グラン・ミラージュ♪グラン・ミラージュ♪」と口ずさんでいる自分が怖いレビューでした汗

支配下の自由@世田谷パブリックシアター音楽劇「ある馬の物語」

7/22(土)13:00~ 兵庫県立芸術文化センター 中ホール

f:id:morton:20230804163003j:image

【原作】レフ・トルストイ
【脚本・音楽】マルク・ロゾフスキー
【詞】ユーリー・リャシェンツェフ
【翻訳】堀江新二
【訳詞・音楽監督】国広和毅

【上演台本・演出】白井晃

【出演】
ホルストメール 成河 
セルプホフスキー公爵 別所哲也 
牡馬/伯爵他 小西遼生 
牝馬/マチエ他 音月桂
大森博史 小宮孝泰 春海四方 小柳友
浅川文也 吉﨑裕哉 山口将太朗 天野勝仁 須田拓未
穴田有里 山根海音 小林風花 永石千尋 熊澤沙穂

【演奏】
小森慶子(S.sax.)ハラナツコ(A.sax.) 村上大輔(T.sax.) 上原弘子(B.sax.)

【美術】松井るみ
【照明】齋藤茂男
【音響】井上正弘
【振付】山田うん

f:id:morton:20230804163355j:image

トルストイ原作の「ホルストメール」を1975年にレニングラード(現サンクトペテルブルグ)で上演された作品の潤色とのことでしたが、トルストイが生きたのが帝政ロシア時代から第一次ロシア革命、そして上演されたのがソビエト連邦だった時代、ということも思うと、さらに終わっていろいろなことを考える作品だったなと思います。


本来2020年東京オリンピックで世田谷区にある「馬事公苑」が馬術競技の会場だったため、オリンピックへのカウンターパンチという意味を込めて上演しようと考えられていたというこの公演。
コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻が続く中、当初とは違う気持ちで一から作られたと演出の白井晃さんがおっしゃっていました。

 

物語は一匹の年老いた牡馬の過去への振り語りというカタチで始まります。
その馬は俊足だったけれど生まれつきまだら模様だったため、冷遇されて育ちます。
けれども同じ馬場の牝馬に恋し、それがきっかけで去勢されてしまい、それから周囲を見つめ考えるということを始めます。
そんな彼を見初めた公爵との生活、その後の生き様が描かれる作品でした。

 

これも何度も書いているのですが、「最初のシーンで客席をその世界観に取り込むこと」というのはとても重要だと私は思っています。
この作品はそれが、とても強烈で素晴らしかったのです。
工事現場のようなセット、働く人々から、ビニール袋に包まれる成河さん。
それがクレーンで持ち上げられて、それを破って飛び出す一匹の馬のヴィジュアルは生誕のようでもあり驚きに満ちていて、一瞬にして物語に引き込まれました。
そしてこれはホルストメールを成河さんが演じたからこそ、できたものだとも思いました。

老いたホルストメールが、過去を語ると若返り、また語るときに老いる。
その語り、若さと老いの演じ分けのスキルのすばらしさ。
馬を魅せる身体能力の高さ。
そこになんの無理もないからこそ、ホルストメールの生き様を鮮やかに受け取ることができるのです。

多くと違った容姿に生まれついたものがいじめられる構造の部分は、まだホルストメールが若くイキイキと演じられているがゆえに、心に沁みる部分がありました。
美しい牝馬・ビャゾクリファがホルストメールに友情を抱いても恋心は抱かない、彼女が魅せられるのは一番美しい牡馬なのもとてもリアルでした。
だからもちろん、ホルストメールが彼女を犯していい理由にはならない。
そしてその罰としてホルストメールが去勢されるところは、現在の人間の世界にも早く取り入れてほしいと思いました。
(現にカナダは性犯罪者に化学的去勢を実施しているそうですね。
 「8人に性的暴行」EXO元メンバーのクリス、拘置所収監…化学的去勢の可能性も | Joongang Ilbo | 中央日報

だってそこからホルストメールは「生きるということ」を考えるからです。
アフタートークで稽古中にカンパニーで馬の見学に行かれたことが紹介されましたが、「去勢された牡馬とされていない馬の目が素人でもわかるくらい違う」と語られていました。
私にとっては全く理解できませんが、男性性という性を生きる者にとっては恐らくとても大切なものを失った後というのは、世界が違って見えるのだろうことは想像できました。

けれどもここからホルストメールは別所哲也さん演じる公爵に買われて、そこで「一生で一番楽しい時期」を過ごすのです。
公爵にとっては「自分が所有する馬」ではあったけれど、そこに信頼と尊敬と愛があって、快適に過ごせる待遇と自分の価値と能力を誇れる仕事があることが「幸せ」につながる、というのは、生き物として共通なのだなと感じたのです。
アフタートークでは、このホルストメールの在り方が「ロシアの民族性を描いているのかもしれない」と語られました。

ロシアの「革命で帝政が破れ、強権の政治家が生まれ、ペレストロイカで自由になっても、現在の大統領が生まれてくる中で自由を得る国民性。」

支配されているからこそ、安心して自由を謳歌できるというところは、私個人は特に日本人にも通ずるところがあるかもしれないと思いました。
とりわけ終身雇用制度はこういう考え方から生まれたもののように思います。

ただ世界は日々変わりながらも、大きな歴史の流れは繰り返しているからこそ、こういう作品を見て、考える時間はとても貴重だなと感じました。

ホルストメールも公爵も幸せな時間はあっという間に過ぎ去ります。若く美しいものたちが公爵からも幸福な時間を奪っていくのです。金で所有することの現実が描かれます。そしてホルストメールは再び過酷な運命にさらされます。それでもホルストメールは生きていく。そして老いてその生き様を語り終えるとき、同じく老いさらばえた公爵と再会します。
ホルストメールはすぐに公爵だとわかるけれど、公爵にはわからない。
ただ「たくさんのものを持っていて人生を謳歌していた頃に出会った素晴らしい馬」のことしか思い出せない。それが今目の前にいる彼とは気づかない。
それでもホルストメールが公爵に顔を近づけていななくとき、なんとも言えない気持ちになって涙しました。哀れみなのか、馬の優しさなのか、自分でもあそこで感じた気持ちが何なのかわからないのですが、とても心に触れたのです。

今や公爵は周囲の人間にとって「やっかいもの」、ホルストメールも同じです。
でもホルストメールにとっては「幸せな時間を与えてくれた人間」であり、飼い馬ではなく「友」と呼んでくれたたった一人の人間だったわけです。
それが分かるホルストメールと、それを思い出せない公爵を見ると、無敵だった若き頃は過ぎ去り老いた今、一体幸せとはなんだろうと考えてしまう。そういう作品でした。
(老いた公爵の別所さんの演技がまた素晴らしかったことを添えておきます。)

 

そしてこれは、ぜひ一階席で見たかった!と思いました。
半円形のせり出したステージがあって、登場人物・馬たちが出番でないときは、観客と同じようにホルストメールの話を聞いている。
いわゆるイマーシブシアターに近い形式の演出だったからこそ、もちろん収益という現実が大事なのは重々に承知な上で、「平成中村座」みたいなどこでも一体感を味わえるような専用仮設劇場みたいなところで、この演出で見てみたいと思わずにはいられませんでした。
多分そうすればまた感じることは違うような気がするのです。

 

4本の種類の違ったサックスのみで奏でられる音楽も素晴らしく(脚本のロゾフスキー氏が作られた音楽を使用し、それとうまく融合する音楽を追加されたとのことでした)、ミュージシャンと演者の垣根がないのもまた魅力的でした。


そして舞踏家でいらした山田うんさんの振付は、心が動いてから身体が動くことを重視されたということで、馬っぽい動きとそうでない動きの融合具合が素晴らしく、メインキャスト以外の登場人物も個々の魅力を発揮していました。

本当に素晴らしい舞台だったからこそ、ラストシーンだけが気になりました。
最後のモノローグの前に、成河さんが馬のメイクを落とす時間の「間」があったのです。
しかし私をはじめ、初めて見る観客はこの後にモノローグはあることを知らないため、終わったと思って拍手してしまったのですよね。
そこで拍手を止めてモノローグを言うカタチになってしまったのはとても残念だなと思います。
あのモノローグは「伝えたいこと」であったと思うだけに、妙なカタチで不自然に浮きだってしまったのが残念です。

(そしてその伝えたいことは、一体どちらの死に様が、生き様が価値があるか的なことだとは思うのですが、多分このままでいくと私の死に様はホルストメール側になる可能性が多いにあるため、ちょっと希望を抱きました)

本来レニングラード(現サンクトペテルブルグ)で上演された際は、国立劇場の老齢の専属俳優が演じた役だからこそ、10年後、20年後にもホルストメールを演じてみたいと成河さんはおっしゃっていました。
だから再演があることを期待して、その再演の際にはあのモノローグまで自然に流れる演出になっているといいなと思います。

自分らしく生きることの難しさ@アミューズ「FACTORY GIRLS-私が描く物語-」

7/1 17:30~ COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

f:id:morton:20230712000813j:image

キャスト

サラ・バグリー 柚希礼音
ハリエット・ファーリー ソニン
アビゲイル 実咲凛音
ルーシー・ラーコム 清水くるみ
ベンジャミン・カーティス 水田航生
シェイマス 寺西拓人

マーシャ 平野綾
ヘプサベス 松原凛子
グレイディーズ 谷口ゆうな
フローリア 杉山真梨佳
アボット・ローレンス 原田優一
ウィリアム・スクーラー 戸井勝海
ラーコム夫人/オールドルーシー 春風ひとみ

スタッフ

作詞・作曲 クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
脚本・歌詞・演出 板垣恭一
振付 当銀大輔

f:id:morton:20230711171525j:image

「1789」はスペクタキュラ―と銘打ちながら、今やなんか政治的なことまで考えてしまう作品になりましたが、こちらはそもそもが社会派ミュージカルです。

そしてこの問題は今もなお、多くの労働者が直面していることだと思うので、再演で多くの人が見てくれることを希望していました。

stok0101.hatenablog.com

初演の時に願ったように、再演はできる限りのブラッシュアップはされていました。

でもわたしが好きなだけで、みんなが好きな作品にはなるのは難しいのだなあと改めて思いました。

ただ初演感想で書いた「ガールズの無意識の上から目線」部分は消去されていたので、一番訴えたいところをきちんと訴えられるようになったかなと思います。

(あと大阪は箱もよかった!いや簡素な劇場であることは知っていたので、この作品の世界観にあうだろうなと。サイズもぴったりだと思いました。ただ一律14,000円のハードルは高かったですね涙)

 

初演からはちょこちょこセリフも変わり、サラとハリエットの性格も少し変わったように思いました。

サラは初演の方がもっと「普通の人」でよかったかな。再演では「思ったことはつい言葉にしちゃう性格」というのが付け加えられていて、まあそれもリアルだし、この作品で「サラ・バグリー」をどうしたいか、というのは分かりやすくなったのですが、個人的には初演の素直で普通のサラが、それでもどうしてもこの状況に文句をいいたくなってしまう、改善したいと願う方が好みではありました。

一方のハリエットは「父親のDVで母親が死んだ」ことを今回セリフではっきりと明示されます。

もちろん「ペーパードール」の曲の中で今までも暗示されていたのですが、はっきりと言葉になることで、この過去を持ったハリエットに演じ変えていたように思いました。

常に人の顔色を窺い、感情の爆発を避け、なるべく物事を穏やかにスムーズに進めるよう、静かに内心いつもどこか怯えながらそこにいる。

初演の毅然として冷静沈着で聡明なハリエットも好きでしたが、ハリエットは今回の方が人間味があって好ましく思いました。

初演後のソニンさんのバースデーライブ配信で「ローウェル・オウファリング」ではハリエットはいくつかのペンネームを持って書き分けているということを教えていただいたのですが、そういうハリエットの行動にもつながる役作りだったと思います。

争うことが怖くて、慎重に慎重に事を運ぼうとするハリエットがよく分かる。

そこにある意味、精神的には健全に育ったサラがずかずかと入り込んでくるのは面白かったですし、二人が対立していくのも理解しやすかったので、ブラッシュアップ、になったのではと思います。

 

初演を見たときは、アメリカのどの辺りの時代か分からず、できる限り調べて初演の感想を書きました。

なので、知識的に初演と再演と見る目も変わってしまったため、ベンジャミンの新曲「鉄の絆」を聞いたときに、鉄道に乗って移動していた「風と共に去りぬ」の世界を思い出し、この後に南北戦争があるんだなあと思ったのですが、この曲の追加が必要だったかどうかがちょっと分からないのです。

そしてその変わりに彼女たちの一世代前の女性の生き方が語られる「ミセス・ラーコムの晩御飯」はBGMになってしまいました。

この作品は女性の地位向上を目指した作品ではあるけれど、それ以上に労働上にある差別についても描いているところが好きだったので、男性の歌も必要ではあると思うのです。

さらに「鉄の絆」はもっと広い世界を見て、経済を大きく発展させていきたい趣旨の歌なので、目の前の労働時間、労働環境の改善に立ち向かうガールズとの対比も出て、いいとは思うのです。

でも「ミセス・ラーコムの晩御飯」を抜いてまで付け足す必要があったのかどうかは考えるところではあります。

 

ただ現状なかなか日本でミュージカル作曲家が生まれづらい中、アメリカの大学で単位取得のために作ったミュージカル作品からいいものを選んで日本で育てていく、という道筋は本当にアリだと思うし、面白い目のつけどころだと思うので、今後もこういう新しい作品が、日本でどんどん産まれてくるといいなと思います。

(残念ながら初演でリンクした「ダディ・ロング・レッグス」などのミュージカルをプロデュースしたケン・ダベンポート氏の課題で作られた作品の優秀なものを選出したサイトは閉鎖されてしまっています。でも学校の課題でシタアーライティングがあって、その優秀作品を選出できる状況がまず日本と違うなと未だに思います)

 

ところで一部の記事で「ルーシー・ラーコムの回想記『A New England Girlhood』をベースにしたミュージカル」、と説明されているものも見かけたのですが、初演の時にはそんな話しはどこにもなく、ルーシー・ラーコムは実在の人物だということだけが、プログラムのキャストコメントで分かる程度だったのです。

今回のプログラムを読んでも、この作品の着想元は「ローウェル・オウファリング」であると明記されていたので、どこからそのような話しがでたのか気になっています。

(初演見た後、ルーシー・ラーコムを調べようにも綴りも分からず苦労して探したので、いきなり再演でどうしてそんな話しでた感に驚いたのでした)

 

でもそんな気になるところを吹き飛ばすように、ガールズはパワーアップしていました!

ルーシー清水くるみちゃんのチャーミングなこと。そしてそのチャーミングさをオールドルーシーにつなげる春風ひとみさんの的確な演技。

アビゲイルは初演を経て、ますます大人で知的になっていて、この役は実咲さんの当たり役ではと思います。そして「いるよなー、こんな女の子」というマーシャが再演から参加の平野綾さんだったのですが、彼女がめちゃくちゃかわいい!

お金持ちのいい男と結婚して幸せになりたいという夢と、労働上の差別に怒る心は両立します。それを強く感じさせるすごくステキなマーシャでした。

マーシャとヘプサベスが歌う「オシャレをしたい」も二人とも素直でチャーミングで、だからこそ、後半で明かされる彼女らの多くが貧困にあえぎ、父親のDVに苦しんでいた事実が突き刺さるのです。

この作品を見に行く前にNTLiveの「オセロー」を見たのですが、

www.ntlive.jp

幕間の制作陣対談放映で「男性はストレスが自分が支配できる家庭への暴力に変化しがちだ」的な発言がありました。

貧困というストレスの中、自ら経済力を持てなかった女性たちがDV被害にあう。彼女たちはそんな父親、母親を見て育ったことを改めて感じました。

だからこそ最後の最後、再演のパンフレットの中で男性陣に「スーパーソニンタイム」と言われていたハリエットの爆発があると思うのです。

わたしが見た日は前日フローリア役の能條愛未さんが体調不良で公演中止になって、初演からのアンサンブルだった杉山真梨佳さんが代役としてフローリアを演じた2公演目でした。(ちなみに杉山真梨佳さんのフローリアは歌も演技も素晴らしかったです。)

それが関係したのかどうかは分かりませんが、ソニンさん自身もこのようにインスタにあげられているほど

ハリエットの感情の揺らぎを感じ、その哀しみ、その痛み、その悔しさ、その怒りがまっすぐに客席に届いて、心震える公演でした。


www.youtube.com

そして「奴隷じゃないわ、娼婦でもない」の歌詞を「どう生きるかを指図しないで、わたしの人生はわたしのために」に変えてくださったことには、心より感謝。

これは今のわたしたちにも、とても突き刺さる言葉だと思いました。

 

男性陣もまたよかった。特に初演から続投している原田優一さんのアボット工場長。もう本当に一歩会社に帰れば出会えそうなほどリアル。

シェイマスの寺西拓人さんは、とても誠実で、だからこそガールズが敗れた後にスクーラーから告げられるセリフを受ける姿、そしてこの後の史実の皮肉さが響きました。

変わりはいる。使い捨ての労働者にすぎない。

でも声をあげなければ、社会は変わらない。

見るとやっぱりまたいろいろ考えてしまって、調べてしまうのですが、一つ参考になった論文を自分のためにリンクしておきます。

工場制度成立期におけるローウェルの女工たち

最後になっちゃいましたが、谷口ゆうなさんのグレイディーズ、あなたが大好きです。

幕開きの「機械のように」からキレッキレに踊っちゃうダンス力も暖かな歌声も本当にステキ。ガールズが「太陽かえして」と訴えるこの作品を優しく照らす月は彼女だったと思います。

当事者のいない閣議への反乱@宝塚星組「1789-バスティーユの恋人たち―」

6/29 13:00~ 宝塚大劇場

f:id:morton:20230711171802j:image

スタッフ

脚本・音楽 ドーヴ・アチア、アルベール・コーエン
潤色・演出 小池 修一郎 

キャスト

ロナン・マズリエ 礼 真琴    
オランプ・デュ・ピュジェ 舞空 瞳

マリー・アントワネット 有沙 瞳      
シャルル・アルトワ 瀬央 ゆりあ        
カミーユ・デムーラン    暁 千星        
マクシミリアン・ロベスピエール 極美 慎
ジョルジュ・ジャック・ダントン 天華 えま

ソレーヌ・マズリエ 小桜 ほのか         
ラザール・ペイロール 輝月 ゆうま        
ヨランド・ドゥ・ポリニャック 白妙 なつ        
ジャック・ネッケル    輝咲 玲央    
ルイ16世 ひろ香 祐        
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン 天飛 華音        
シャルロット 瑠璃 花夏

 

見るたび違う印象を抱くのが楽しくて大好きな作品なので、今度は何を感じるだろうと観劇を楽しみにしていた作品なのですが、まさかの初日開いてから2週間強の休演でチケットは紙となり嘆いていたところ、救い手現れ、天井桟敷から見ることができました。

まず月組初演の感想がこちら。

stok0101.hatenablog.com

東宝初演の感想がこちら。

stok0101.hatenablog.com

東宝再演の感想がこちら。

stok0101.hatenablog.com

東宝再演を見てようやくこの物語が「ロナンとアントワネットが真逆の方向からではあるけれど、今起こっている問題に気づき、自分というものに気づき、それぞれの立場で何をすべきか考えるにいたるさまがリンクしている」ことに気づいたわけですが、そうなると、宝塚月組の初演配役の在り方も「アリ」だったなあ、と今さらながら思いました。

 

とはいえ、宝塚にはトップコンビがあり、星組には三拍子も四拍子もそろった素晴らしきトップコンビがいる。そしてトップ娘役に負けない輝きと実力を兼ね備えた有沙瞳さんがいる。その素晴らしいバランスで見るこの作品はまた大変に面白かったです。

そして東宝版のソニンソレーヌがすごかっただけに、宝塚ではどうなるだろう、と思っていたら、小桜ほのかちゃんのソレーヌが本当に素晴らしかったのです。

このソレーヌは、田舎娘でロナンに取り残されてなすすべもなく、仕方なしにパリに出てきて、最初はそんなつもりなく騙されたような形で娼婦になったんだろうなあという感じが全面にでていて、だからダントンの話しもあんまりよく分からなくて、ただ話しを聞いていると同じ「庶民」というくくりなはずなのに「金持ちのボンボン」だから、今日明日をどうにか食つなぐ、なんてことを考えずに、人権をとか、フランスの未来をとか言えるんだろうなあ、と思っていそうなソレーヌなんですね。

つまり本当に「社会の底辺にいる若い娘」感があって、だからこそこのソレーヌで「パン屋襲撃」を見たかったなと思います。

 

ダントン・デムーラン・ロベスピエールの三人組と、その対極にいるアルトワ伯のバランスもとても良かったです。

それぞれに画策する人々。

それに翻弄されるルイ16世とアントワネット、そしてロナンとオランプ。

デムーラン暁さんがとても誠実だからこそ、無意識の上から目線が見えるのが面白い。

三部会から第3身分のロベスピエールら市民が追い出されて、ジュードポムへ駆け込むシーンが本当にムネアツなんですが、そういう大事なことですらロナンやオランプの参加できないところで決まるのだなあと改めて感じました。

世の中のことは「本当の当事者」がいないところで、どんどん決められていく、というのが現状に重なり、あきらめのため息をつきたくなるところで、ロナンが登場するのです!

そしてこのロナンは歌もうまいけれど、ダンスがめちゃくちゃ上手い!そのスキルを思いっきり活かして素晴らしい踊りで民衆を鼓舞するシーンが特に圧巻でした。

あとロナンとオランプが「身分関係なく自由に愛し合いたい」というストレートな思いがグッと伝わってくるところも、今回の配役ならではかなと思いました。

ただやっぱりどうしてもラストシーンがああなるので「フランス人権宣言」自体の存在が薄くなっちゃうのは、宝塚版の残念なところではあると思います。

というか、こうだったから、東宝版初演を見たときに「フランス人権宣言」が印象的だったんでしょうね。

まあ、どちらがいいかは好き好きなので、難しいかもですが、キャスト一新しての東宝版「1789」の再演もお待ちしています。

 

実は東宝版再演の1789の円盤

mall.toho-ret.co.jp

を購入しまして、見直してからこの星組1789を観劇したのですが、歌のカット、追加はあれど流れはほぼこの東宝再演と同じです。

そしてこれを見ていると改めて、ルイ16世がネッケルとアルトワ、両方の意見を聞きながらも、革命を回避できない方ばかりを選んでいくのが見えるのが怖いです。

本当のルイ16世がどんな人物で、本当は革命にいたるまで彼がどんなことをしていたのかは私は知らないのですが、この作品の中でルイ16世は、とにかく「いい人」で、でも「政治的な関心」はなかったように描かれています。

「私は罪なくして死んでいく」という処刑の際の言葉が有名ですが、最終決定権を持った人間が周囲の思惑に気づかず踊らされているのは、罪ではないだろうかと思わずにはいられなかったのです。

でも彼のような人間はきっと今も政治の中枢のところにいるだろうなと。

ただロナンと私たちの最大の違いは「選挙権を持っている」ことなのだから、考えて行動しなければならないな、なんてことまで考えてしまうのは、エンタメとしていいのか、悪いのか、そんなところも面白い作品だなと思いました。

真実は小説より王道@ホリプロ「ファインディング・ネバーランド」

6/10(土)17:30~ @梅田芸術劇場

f:id:morton:20230615135122j:image

スタッフ

原作:デヴィッド・マギー脚本によるミラマックス映画作品 

アラン・ニーによる戯曲『The Man Who Was Peter Pan
台本:ジェームズ・グラハム
作曲・作詞:ゲイリー・バーロウ&エリオット・ケネディ

翻訳・演出:小山ゆう
訳詞:高橋亜子

照明:勝柴次朗
振付:松田尚子 

キャスト

ジェームズ・バリ:山崎育三郎
シルヴィア・デイヴィス:濱田めぐみ
フック船長/チャールズ・フローマン:武田真治
メアリー・バリ:夢咲ねね
デュ・モーリエ夫人:杜けあき

キャナン卿:遠山裕介
クローマー:廣川三憲
ヘンショー:星 智也

ジョージ:越永健太郎、ポピエルマレック健太朗(Wキャスト)
ジャック:生出真太郎、豊田侑泉(Wキャスト)
ピーター:小野桜介、長谷川悠大(Wキャスト)
マイケル:奥田奏太、谷慶人(Wキャスト)

 

わたしが観劇した回の4人の少年は上記写真のとおりです。

特にジョージ役の越永健太郎くんがウクレレの弾き歌いもなんなくこなして上手くて驚きました!

ちなみにポルトス役はセントバーナードのオリトくんでした🐶

 

さて本編ですが、「ピーター・パン」のお話しはよく知っていましたが、ミュージカルの着想元となった映画は未見。

ブロードウェイ来日公演を見ておらず、ブロードウェイ版でジェームズ役を演じたマシュー・モリソンビルボードライブで、メドレー形式で楽曲だけ先に聞いたことがある程度のほぼノー知識で見たので、改めてこんな話だったのか、と思いました。

特に二部は割とベタな展開になって、マジで?となっていたのですが、観劇後にWikipedia先生を読むと、これが事実だと知って驚きました。

 

物語は劇作家のジェームズがスランプに陥っているところから始まります。

そしてデイヴィス家の4人の兄弟たちと出会い過ごす間に、物語を作ること、空想の世界を広げることを思い出し、ピーター・パンの着想を得る、という内容なのですが、ジェームズと4人兄弟との出会いがロンドンのケンジントン・ガーデンズで、そこにピーター・パンの銅像があったことを思い出し、しみじみするような、ハートウォーミングな作品でした。

 

ただ全体的に曲が弱い。悪くないんですが、耳に残りにくい。

この点がブロードウェイでヒットしなかった理由なのかなとか、ちょっと思いました。

だってブロードウェイ版の演出「PIPIN」リバイバル賞受賞のダイアン・パウラスですよ!そして振付はミア・マイケルズですよ!めちゃめちゃ見たい!見たかった!

(ミア・マイケルズは「So You Think You Can Dance?」のこの作品がめちゃくちゃ好きだった振付家です。アステア賞ではこのミュージカルの振付でノミネートはされていました。)


www.youtube.com

これSYTSCDのシーズン2の作品なのですが、シーズン9でも別のダンサーが踊ったり、シーズン2のトラヴィスが別のパートナーと踊ったりしているみたいなので、この作品がすごく支持されているのが、改めて分かりました。


www.youtube.com


www.youtube.com

踊りは言葉を超える、ということがよく分かる作品なので、よろしければ見ていただきたいし、個人的にも見返したいので、ここに保管しておきます。

 

で、日本版なのですが、こちらも振付は悪くなかったですし、照明が工夫されていて、物語の前半から後半へ、このためのこういう照明だったのか、と感動しました。

だからこそピーター・パンもウェンディも照明のみで表現しても面白かったかなと思います。

そして物語も最後にはうっかり涙しちゃうくらいにはいいのです。

ただなんかちょっと引っかかってしまったのが、ジェームズとその妻・メアリーの関係だったのかなと思います。

メアリーの登場の仕方が中途半端というかなんというか、ジェームズと4人の子供たち、そしてシルヴィアとの心の結びつきを丁寧に描くなら、メアリーとのすれ違いももっと丁寧に描いた方がよかったと思うのです。

シルヴィアとの関係がリアルな話に基づいているのに対して、メアリーとの関係は若干フィクションぽいので、その差がちょっと出てしまったのかなと思います。

でもメアリー役の夢咲ねねさんはそのスタイルの良さが際立つ衣装で美しくそこにいてくれて大満足。ただファン的にはいろいろな姿が見られて嬉しいけれど、メアリー以外のアンサンブルの役も結構多くて、その辺りもメアリーという役の書き込み方が少ないように思いました。

そして一方のシルヴィア役の濱田めぐみさんに、なんというか、個人的には上流階級のお嬢様らしい気品と純粋な気さくさや温かみが感じづらかったのも違和感の一つかなとは思います。登場シーンは4人の子どもの乳母なのかなと思ってしまいました、すみません。でも歌は本当に絶品。山崎育三郎くんとのデュエット「Neverland」は耳福以外の何物でもなかったです。このクオリティで歌える人、となると、本来この役にちょうど良い年齢で主役級の存在感を放てる人が思いつかなかったので、濱田めぐみさんしかなかったなと思います。

(個人的には前に見た「バンズ・ヴィジット」の濱めぐさんがすごくよくてハマっていたので、本来彼女は「バンズ・ヴィジット」の時の役のような、サバサバした感じなのかなあと思いました。「バンズ・ヴィジット」のアフタートークもあっけらかんと楽しい方だったので)

 

一方で山崎育三郎くんのジェームズ役は、本当にとてもよかったです。個人的には「ラ・カージュ・オ・フォール」のジャン=ミッシェル以来の当たり役だと思いました。

子どもたちと接する姿がとても自然で暖かく、とりわけ二幕のピーターと歌う「When Your Feet Don't Touch the Ground」は感動的でした。

子どもは大人が思っているよりもずっとちゃんと分かっている。

当事者である彼らには真実を知る権利がある。

そういうことをジェームズだからこそ理解しピーターにまっすぐ向き合う。そしてピーターもしっかりそれを受け止める。それが歌となるのはミュージカルの醍醐味を感じます。

そして厳しくも暖かいデュ・モーリエ夫人、杜けあきさんのコミカルとシリアスの塩梅の上手さよ!大詰めシーンでデュ・モーリエ夫人が拍手を導くところは、思わず涙しながら、それでもこちらも「ピーター・パン」の物語を見ている気持ちで拍手しました。

そしてだから子どもたちは大丈夫とも思えたシーンでもありました。

 

後半は特に「ピーター・パン」の物語が入り交じり、そこが面白く武田真治さんの二役も見事でしたが、これ、もし「ピーター・パン」を知らなければ、なんのこっちゃってならないだろうか、とはちょっと思いました。

児童文学として、そしてディズニーアニメとしても有名な話しですが、これからはもっと「ピーター・パン」を知らない層も出てくるだろうし、ちゃんとは知らないという人だっているだろうことを考えると、その辺のツメもちょっと甘かったかなと思います。

この辺りを映画はどう描いているのか気になるので、映画の方もぜひチェックしてみたいと思いました。

 

ところでですね、グッズのアクスタね、ランダム式はやめましょうよ。だって今回のメインキャストでアクスタ欲しい層の9割は育三郎くんファンですよね。残りを多分、武田真治さんとねねちゃんファンが担ってますよね。濱めぐさんファンもきっとアクスタほしい感じのファンでないと想像しますし、杜さんファンもほとんどそうだと思うんです。

いやわたしは杜ファンとして出るなら、きっとこれが最初で最後だから買わねばと思いましたが、それを当てるためにいくら投資したらいいのか怖かったし、育三郎くん目当ての方が杜ちゃん当たっていらなーい、ってなっているのを見るのも哀しい。

なので値段を上げてもいいから、数を調整してアクスタ指定買いをさせてくれたらよかったのになと思います。

そしてねねちゃんはアンサンブルの役まで全部アクスタも舞台写真も出してくれていいですよ。指定買いができるなら買いますから。

ということを最後にホリプロさんの劇場グッズ企画部に訴えておきたいと思います。笑

過去最高の非日常感@ホストクラブ「レジェンド愛」

多分これが最後の「大人の非常階段」になると思います。

「大人の非常階段」としては1番メジャーだろうに、なぜ今まで行っていないのか、と思われるかもしれませんが、本当に興味がなかったのです。

わたしは男性でも女性でも「上品に着飾っている状態」が好きでして、いわゆる一般的なホストクラブのイメージのファッションが苦手なのです。

しかしなぜ、等々ホストクラブへ赴いたか!

それはTwitterで社交ダンス雑誌編集者の方が、社交ダンスが踊れるホストクラブがあることを教えてくださったから、でした。

 

実は今は亡き「東宝ダンスホール」なども行ったことがあり、あれはあれでなかなかすごいタイムトリップ感のある素晴らしい場所だったのですが、ダンスホールはとりあえずお相手がいないと踊れない、という大問題がありました。

客層としてはやはりグループか、女性が多く、ほぼほぼ皆さまが踊っているのをただただ眺める時間の方が長かったのです。

 

しかし社交ダンスも踊れるホストクラブ「レジェンド愛」では、

www.legend-ai.com

ちゃんとスーツ(人によってはネクタイ着用もあり)をお召しになったホストさんたちがリーダーとしてお相手してくれる、というので、ドキドキと初回飲み放題1時間一人5,000円コースをネット予約し、社交ダンスサークルで知り合った友人と一緒に行ってみました。

 

新宿歌舞伎町のまあまあ奥にある雑居ビルに到着し、二人でド緊張しながら扉を開けてみたら、事前に聞いてはいたのですが、お店のスタッフとはとバスツアーのガイドさんがいて、その奥は相当賑やかな雰囲気でした。

そうです、このホストクラブは「はとバスツアー」もやっているのです。

www.hatobus.co.jp

どうでもいいですけれど、このツアーのディナー場所「トニーローマ」は、東京に住んでいた時代、大好きなお店で、大阪から東京に来てくれた友だちはたいがい連れてゆき、東京最後のディナーの一つにも選んだお店なので、時間があったらこのツアーに乗りたかったなと思います!

ちゃんとガイドさんが付いているし、このツアー用ということでプログラムも決まっているっぽく(最後はチークダンスで締めのようでした)、支払いも終了時間も自分でしなくていいのはラクだなあと思います。

ので、興味ある方はぜひこの「はとバスツアー」を個人的にはおすすめします。

(社交ダンスは正直ほとんど踊る人はいないので、踊れない人でも全く大丈夫です)

20名いないと催行しないのは、催行決定するかどうかのリスクはありますが、逆に最低でも20名の団体で行けるので、一人にならずに埋没してしまえて、安心感あると思います。

 

て書くとまるで「はとバスツアー」の回し者みたいですが、全く関係ありませんので、その辺りもご安心を。たまたま遭遇して見ていた感じ、個人で予約して行くよりも気持ちにゆとりを持てそうだし、トニーローマ+レジェンド愛で9,800円はバス代・ドライバーさん代・ガイドさん代合わせても採算取れているのか不安になるくらいのお値打ち価格だとわたし個人は思いました。

 

さてその「はとバスツアー」があったためか、はとバスカラーのジャケットを来た桐生社長がいらっしゃって、自ら気さくに入口で緊張で震えているわたしたちを出迎えてくださいました。

はとバスツアーのお客様たちが終わられるまでの間、通されたのが、通常のフロアの奥にあるキンキラキンの小部屋。天井にはシャンデリア、カップボードにはバカラっぽいグラスがずらーっと並んでいます。

f:id:morton:20230602132815j:image

f:id:morton:20230602132821j:image

内装から圧倒されながら、とりあえずこの隙にとダンスシューズに履き替えたのですが、途中わたしたちの様子を見に来られた社長さまが「ダンスシューズ持ってたら今のうちに履き替えてね」とおっしゃってくださいました。

ということで、ダンスシューズ持参OK、です。

 

はとバスツアーの終わりの感じもなかなか楽しかったのですが、これはぜひ「はとバスツアー」で体験してみてください。

はとバスツアーが終了して、違う場所に移されるかと思っていたら、そのままその奥まった小部屋の違う席に移動になりました。

社長さま曰く「初めてのお客様は一段高いこの部屋で特別感を味わってもらえるようにしている」のだそうです。

あと芸能人のお客様とかが来られた際には見られず貸し切れるように、と仰ったので

「はー、さすが、芸能人とかも来られるんですね」と思わず口に出したら、「来たことないけどね✨」と爽やかな笑顔で一言。

まあ、あれですね、何があっても対応できるように備えておくのは、どんな職業でも大事ですね。

 

わたしたちが「社交ダンスもちょっと踊りたい」という要望を出していたので、社交ダンスも踊れる若いホストさんお二人がお相手してくださいました。

飲み放題のお酒はホームページの記述どおりですが、ソフトドリンクの方はほぼ「午後ティー」(ミルク・ストレート・レモンは選べる)なので、ソフトドリンク派の方はそこだけご注意を。

アルコールもソーダ割はないようでした。

踊るならシュワシュワした飲み物がほしかったところなんですが、まあその辺はお金も持ってシャンパンあけられるくらいにならないとダメってことですね。

そして飲み物はもちろんホストさんが入れてくださいます。

 

踊れるフロアは狭いのですが、社長さまのTikTok成果で最近は若いお客様が多いらしく、夜に踊りに来る客は少ないっぽいので、フロアはほぼ貸し切れるような気がします。

(社長さまより「落ち着いた大人の社交場を目指している店なので、二人(友人とわたし)はお店にピッタリ」と仰っていただき、誉め言葉として受け取りましたが、友人は出会った頃20代、わたしも30代になったばっかり、だったため「あ、われらミドルエイジになったんだな・・・」と実感いたしました・・・)

f:id:morton:20230602132854j:image

(↑フロアのライオン)

ルンバやジルバなんかの簡単なステップをちょっと踊っていたら、社長さまがなんと「ハマジル」というものを友人と踊ってくれました!

(ちなみに友人は1年間だけとはいえ学連出身なので上手いです)

社長さまによると「横浜で進駐軍が滞在していたころによく踊られていたジルバの変形」らしいです、ハマジル。

わたしも後で社長さまに踊っていただいて、初めてだったのと緊張でいっぱいいっぱいだったのですが、通常のジルバよりも回転系が多く、フォロワーは「めちゃくちゃ踊っている気分」が高まるいいパーティーダンスだなと思いました。


www.youtube.com

この「ハマジル」はもっと社交ダンス界でも、パーティーダンスとして流行ってもいいのにな、と思うのですが、社交ダンス愛好家の平均年齢を考えるとフォロワーの運動量が大きすぎるのが問題なのか・・・。

とりあえず社長さまはリードもお上手、そして当たり前だけど、トークもサービス精神も何もかも本当にエンターテイナーで素晴らしかったです。

この写真も社長さまが「写真撮ろうよ」と言ってくださって、撮っていただいたものです。

f:id:morton:20230602132935j:image

1時間くらい経ったら、お店からお時間です、とのお声がけがあり、恐らく延長とかできるのでしょうが、この先いたらいくらになそるのか不安だったわれらは、きっちりそれぞれ5,000円だけ支払ってお店を後にしたのですが、それでもちゃんとエレベーター前まで丁寧にお見送りしてくださいました。

(一応帰り際に担当ホストさんよりLINE交換のお申し出をいただきましたが、難しいです、くらいの軽いお断りでちゃんとすっと引いてくださいました。そういうところも紳士なホストクラブだと思います)

 

で降りたら広がる新宿歌舞伎町の雑多な光景。

いやほんと、最近これほど緊張することもなかったし、終わってこんなに異次元に紛れ込んだ気分になるのも驚き。

貴重な経験をありがとうございました。

悔いがあるとすれば、社長さまとハマジルを踊る友人を録画しなかったことです。

いやー、そこまで頭回らないくらい、いっぱいいっぱいになる、すごい場所でした。