こんなことを思ったり。ぼちぼちかんげき。

保護猫と同居人と暮らすアラフィフがビンボーと戦いながら、観劇したものなんかを感激しながら記録。

観劇で一年を振り返る2018

あっという間に今年も終わりですね。
気づいたら大晦日なので、恒例の観劇記録をやります。

★11月

KERA MAP「修道女たち」
宝塚雪組「ファントム」

 REON JACK3

★10月

ジャージーボーイズ


★9月

シス・カンパニー「出口なし」

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 宝塚月組エリザベート

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 来日公演「コーラスライン

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★8月

シアタークリエ「TENTH」兵庫公演

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 宝塚花組メサイア」「ビューティフルガーデン」

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 ★7月

宝塚雪組凱旋門」「Gato Bonito!!」 

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 ★6月

1789-バスティーユの恋人たち

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 宝塚星組「ANOTHER WORLD」「Killar Rouge」

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 ★5月

ナイロン100℃「100年の秘密」 

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 ★4月

ラ・カージュ・オ・フォール 

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 ★2月

マシュー・モリソン ビルボード大阪ライブ

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 宝塚月組「カンパニー」「BADDY」

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 劇団四季ジーザス・クライスト・スーパースター エルサレムバージョン」

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 デビット・ルヴォー「黒蜥蜴」

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 ★1月

シアタークリエ「TENTH」ニューブレイン週 

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 宝塚花組ポーの一族

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 まさかの20本ですか!
そりゃあ赤字になるわけだ。
しかもエリザベートは一回台風で公演中止になったからなあ。

あ、REON JACKの感想が書けてないのは、ダンスはすばらしかったのに、構成と公演の趣旨が「柚希礼音による柚希礼音ファンのためのコンサート」だったからです。
本人とファンがあれで納得しているならば、部外者がどうこういうものじゃないのです。
とりあえずすばらしいダンスを見れたことに感謝。そしてすばらしいダンスシーンで手拍子はやめようと思いました(^◇^;)

いやー、わたしもダンスするようになってから手拍子がリズムとずれてることが気になって、必死に1人でドラム音に合わせて手拍子してたんですけど、やっぱりあれ、ダンサーにとってはリズムがずれるのが気になるらしいですよ(SHUN先生談)(^◇^;)

あとは今さらながらケラさまに目覚めた一年でした。
ル・サンクを写真目当てでしか買わないのに、「100年の秘密」も「修道女たち」も戯曲を購入しましたものねえ。
そしてケラさまにハマった元々の下地はどこからくるかというと、「出口なし」だったりするわけですよ。
そんな演劇への夢とかを思い出させてくれた一年でもありました。

ということで、いってみましょう!

★あなたの賞を作ってください(つけたしても可)

作品賞
【黒蜥蜴】


これ、今回本当に難しかったのですけれど、脚本・演出・役者のバランスが最も高かったもの、という基準で選びました。

 

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇 (岩波文庫)

若人よ蘇れ・黒蜥蜴 他一篇 (岩波文庫)

 

 



あの三島由紀夫の流麗な日本語を中谷美紀さんが奏でるように口にするのが本当に美しかったです。
そしてルヴォー氏のマイナスの美学なセット。
いいのですけど、ケラさまも宝塚も割ともりもり派なので、引き算のセットに今回は軍配をあげようかと。
そうそうポスターも抽象的で美しかったこともすばらしいです。

脚本賞
【修道女たち】

 

修道女たち

修道女たち

 

 



もうこれしかないでしょう!
なんでこんな世界観が作れるのか、前半だけでケラさまの才能に嫉妬しました。
たぶんわたしは、こういうものが作りたかったのじゃないかと。こういうものを作れる人になりたかったのだと、若い頃の夢を思い出しました。

特に今年は個人的な「BADDY」の呪いにかかっていまして、ショーですらロジカルでないと受け入れてもらえないことにかなりのショックを受けたのです。

そこをね、ケラさまはこの作品でかるーくぶっ飛ばしてくださったのですよ。
作品が素晴らしければ、ロジカルだろうとそうでなかろうと感動できる。
ケラさまの脚本が全くロジカルでない、というわけではないですよ。
でもすべてにロジック、因果関係や理由があるわけではない。そういうことが起こりうるのがこの世の中ではないか、とそう言ってくれた気がしたのです。
「なんでもわかるわけじゃないんですよ」
というセリフは、作品ともあいまって、許しみたいなものを与えてくれました。

演出賞
【藤井大介/Gato Bonito!!】

 

 



脚本賞の前段をふまえて、この結果で。
わたしが宝塚全公演を観ているわけではないので、偶然見ただけで申し訳ないのですが、それでも宝塚観劇復活してから見た新作ショーでは、水さんサヨナラの「Rock on」以来、これ巻き戻してもう一回最初から見たい、永遠に見たい、と思えるショーを作ってくれたことに感謝です。
ちゃんと円盤も購入しました(正しくはリクエストしてプレゼントにもらったのですが)。
楽しいです。キレイです。こんなストレスフリーで楽しいショー、ひさびさでした。

主演男優賞
中川晃教/ジャージーボーイズ】

本当に中川晃教がいなかったら、この公演の日本版なんて作れなかったですよ。
アッキーにとっても、「モーツァルト!」「SHIROH」に次ぐ当たり役じゃないですか?
FNS歌謡祭で「再演します!」的なことをおっしゃってたのを信じて、再々演をお待ちしております!
今度はいい席で2回くらいがんばってチケット取ります!
楽しい楽しい作品ですが、それ以上に中川晃教を見て聞くだけで価値のある作品でもありました。

主演女優賞
【明日海りお/ポーの一族

 

花組宝塚大劇場公演 ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 [Blu-ray]

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トップ男役に女優賞というのもなんですが、少年役なので、あえて明日海さんに。
というくらい明日海さんのエドガーがエドガーとしてスキルで魅せてくれた点をわたしはとても評価しています。
少年役も人でないもの役もとてもスキルのいるものです。
それを明日海さんはなんなくこなした上で、美しくエドガーを魅せてくれた。
感想にも書きましたが、ビジュアルだけでいったら明日海さんよりエドガー向きの人はいくらでもいます。
宝塚だけでなく、今のミュージカル界の2.5次元ミュージカル出身者男性は、めちゃめちゃ美形の人が多い。
それでも明日海さんほどのスキルをもってエドガーを演じられるか、魅せられるかというと別問題だと思うのです。

助演男優/女優賞
ソニン/1789】

もうここの常連ですね、ソニン(^◇^;)
わたしは彼女の主演舞台を見たことがないので、ぜひとも「WICKED」のエルファバを彼女で見たい!
誰かが書いてらしたけれど、もはや「ソニンというジャンル」まできましたものね。
とりあえず来年「キンキーブーツ」再演を見に行くことは決まっているので、またソニンを見られるのを楽しみにしています。

男優賞は成河くんかな。
ミュージカル、演劇どちらもきちんとできるスキルがすばらしいです!

そして照明&セット、衣装デザイン賞はやっぱり「黒蜥蜴」に。日本ってマイナスの美学の国なのに、なかなか演劇でそれを活かせる演出家、セットデザイナーが出てこないのが残念です。

★総括と来年の意気込みをどうぞ
あ、総括を脚本賞で語ってしまってる(^◇^;)
ま、そういうことです。
だからやっぱり「出口なし」が今年はじめて日本語で見られたのも大きかったですね。
そして上演されたのもすばらしいと思います。
演劇は単なる娯楽だけど、でも見るならばそれ相応に勉強するのも一つの楽しみ方で、演劇を勉強するなら、やはり「出口なし」とかは必見の作品です。
ああー白井晃演出の「出口なし」も見たい!
なぜ大阪に来てくれないんだ!
という思いをたくさんしそうな一年な気がします。
でも情報収集して、いい作品が大阪に来たときにらなるべく見られるよう、がんばって働きます!←そこか!笑

不思議が生み出すもの@KERA MAP「修道女たち」

11/23(木・祝) 17:30〜 兵庫県立芸術文化センター 中ホール

キャスト
オーネジー 鈴木杏
シスター・ニンニ 緒川たまき
テオ 鈴木浩介
シスター・マーロウ 伊勢志摩
シスター・ソラーニ 伊藤梨沙子
シスター・アニドーラ 松永玲子
テンダロ/ドルフ/保安官/死神 みのすけ
シスター・ノイ 犬山イヌコ
シスター・ダル 高橋ひとみ
シスター・グリシダ(声のみ) 林原めぐみ

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ



上演時間が長いよ、と聞いていたのですが、実際はこんな感じでした。


でも見ていると体感時間は一瞬でした。
そのくらい集中して惹きつけられたお芝居は久々でした。
一部終わったあとにわたしがとった行動は、すぐに戯曲を買う、でした。
修道女たち
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
白水社


この本のあとがきによると、事情がありポスターを取った時点では修道女が出る物語、以外のなにも決まってなかったそうです。
そこからあれだけの世界観を創り上げるケラさまにひたすらうなるばかりです。

そんなストーリーはこんな感じでした。
とある国でキリスト教っぽい修道院に入っている修道女たち6人が、毎年恒例の巡礼の旅にでます。
彼女たちが信仰する宗教の聖地はど田舎にあり、その伝説は真冬におこったとされるため、凍てつく寒さの中、雪の降り積もる祠へ向かいます。
その祠では、修道女に憧れるオーネジーとオーネジーにつきあって幼なじみのテオが修道女たちを待っています。
無事、巡礼地についた修道女たちですが、出発前から抱えていた問題は、ここでも彼女たちにせまりきます。


オープニングの教会っぽい背景の前で、修道服に身を包んだ修道女たち6人が交わす会話のおかしさ。この不自然さをまるっと飲み込むものが宗教というものなのかもしれません。
6人のうち1人シスター・ソラーニは母親に連れてこられただけで一向に信仰心などないので、そこに突っ込んでいくのですが、特に緒川たまきさん演じるシスター・ニンニは彼女の指摘こそが不思議という感じなのです。
何か神々しい雰囲気をまとう緒川たまきさんの美しさこそが、シスターというどこか浮世離れした存在を表現していました。

しかしながらシスターたちも浮世と離れて暮らしていけるわけではないのです。
彼女たちを襲った苦難の現実。
それにどう向き合うのか。
どこまで何を信じるのか。
その中で起こる不可思議がみごとに溶け合い、包み込むように1つの世界が出来あがっているのです。
最後のその美しい完結を見るとき、スノーボールの中の世界に引きずり込まれたような感覚でした。

最中の会話は俯瞰者として面白く笑ったり、彼女たちと一緒にドキドキと怯えたり、少しずつ晒されていく事実に納得したり、本当に終始気持ちを引っ張られる舞台でした。
あの美しい完結も、オーネジーの希望が見せたもので、現実は本当に陰惨な絵なのもしれないと思うと震えました。

全てを知った今、またもう一度見たい、そう思うのです。
でもシスター・ニンニは緒川たまきさん以外考えられない。
あの﨟たけた美しさ。
玉を転がすような柔らかくて優しい声。
彼女こそが女神でした。
神に仕えるということの意味を緒川たまきは全身で表現していたのです。

そんなシスター・ニンニだったからこそオーネジーが憧れるのがよく分かる。
オーネジーは少し知恵おくれです。だから難しいことは分からない。けれども純真でだからこそ無邪気に残酷で、純粋な凶暴性も持ち合わせているさまを鈴木杏ちゃんがさすがの演技力で魅せてきます。
ただもし可能であれば、鈴木杏ちゃんの演技力を持ちながら、透明感が出る役者さんでこの役はもう一度見てみたいなと思いました。
昔の羽野晶紀さんのような、藤原竜也くんみたいな透明感。鈴木杏ちゃんの演技力がそれこそ誰もが身につけることができないように、透明感も努力ではどうにもならないのはよく分かっているけれど、緒川たまきさんの浮世離れ感に最終的に一体となっていく感じが個人的には見たいなと。

それにても犬山イヌコさんと伊勢志摩さんの掛け合いの面白さといったら!
絶妙な間合い、絶妙なトーン。
戯曲を読むだけでは笑いまではいかないところをちゃんとおかしく見せるのを見るとき、演劇のすごさを感じます。

そしてシスター・アニドーラの高橋ひとみさんがまた良かった。
悩める母親、1人の女、バカだけど真剣で、でも色気があってチャーミング。
アニドーラ自身が高橋ひとみさんそのものみたいに感じさせたのがさすがです。

もちろん何役も演じたみのすけさんのコミカルさ、鈴木浩介さんのオーネジーに通ずる優しさと残酷性もすばらしかったです。
ただ戯曲に書かれていた最後のセリフが、実際には聞こえなくて、このセリフが聞こえるか聞こえないかでずいぶんと変わってくる気がするのです。それが残念でした。

今回もプロジェクションマッピングを使ったオープニングもセットも照明もとても美しかったです。
でもセットについては、100年の秘密の方が好きでした。木が真ん中にあるのに不自然に感じさせない舞台の強みをドーンと魅せてきたのに対して、今回は美しいけれどまあ普通のセットだったんですね。特に外の降り積もった雪のセットのところはもう少し演劇的な見せ方ができたらおもしろかったかもしれません。

ところで物語はロジカルでいずれはAIが作るだろう、とある人が言っていました。たしか演劇を作る人だったと思います。
でもこの物語はAIでは絶対に作れない。
見ながら「辻褄があわないとイヤな人が見たらイヤだろうな」と思うシーンがいくつかあったのですが、そのシーンが全て戯曲のあとがきにそういうご意見があったと書かれていて納得。
でもケラさまの、シスター・ノイの言葉どおり、世の中は「なんでもわかるわけじゃないんですよ」。
まだまだ説明のできることばかりではない。
説明できないことは「不思議」になる。
そこに信仰が生まれることもある。

理詰めに疲れたわたしを優しく包んでくれるそんな舞台でした。

彼女は逃げない@宝塚雪組「ファントム」

11/17(土) 11:00〜

ファントム 望海 風斗
クリスティーヌ・ダーエ 真彩 希帆
ジェラルド・キャリエール 彩風 咲奈
フィリップ・ドゥ・シャンドン伯爵 彩凪 翔
アラン・ショレ 朝美 絢
カルロッタ 舞咲 りん

脚本/アーサー・コピット 
作詞・作曲/モーリー・イェストン
潤色・演出/中村 一徳 翻訳/青鹿 宏二

アラフォーおといーぬは当時宝塚休憩中ではありましたが、2004年版の初演を見ています。
宝塚宙組DVD「ファントム」和央ようか花總まり安蘭けい悠未ひろ
宝塚歌劇団,宙組,和央ようか,花總まり,出雲綾
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ブロードウェイミュージカルの初日本版、という言葉に弱いくらいにはブロードウェイファンなのです。

とは言え、記憶が1シーンしかない。
アンドリューロイドウェバーの「オペラ座の怪人」もロンドンで見ているのですが、面白かったけれど夢中にはなれず、ミュージカル映画
オペラ座の怪人 [Blu-ray]
ジェラルド・バトラー,エミー・ロッサム,パトリック・ウィルソン,ミランダ・リチャードソン,ミニー・ドライヴァー
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もみていないありさまで、ストーリーについてはほぼまるっと忘れた状況で見に行きました。

そんなわたしがまるっと忘れていたストーリーはこんな感じでした。

カルロッタと従者の男がオペラ座の中を探っている。男は地下で仮面を被った男に出会い、そのまま行方をくらませてしまう。
一方、シャンパンで財をなしたシャンドン伯爵は、オペラ座の前で歌いながら自作の曲を売っているクリスティーヌに出会う。
その歌声に惚れこんだシャンドン伯爵は、歌のレッスンを受けられるようオペラ座の支配人キャリエール宛の紹介状を書いてクリスティーヌに渡す。
しかしその頃オペラ座はアラン・ショレ&カルロッタ夫妻に乗っ取られて、キャリエールは支配人の座を下ろされてしまっていた。
キャリエールはオペラ座には幽霊がいるから気をつけるようにと言い残し去る。
その後夫妻の元には「ファントム」からの脅迫状が届き、初公演をめちゃくちゃにされてしまう。
そんな頃、シャンドン伯爵の紹介状を持って現れたクリスティーヌは、シャンドン伯爵がオペラ座パトロンであることを知った夫妻によって衣装係として雇われる。
オペラ座にいられるだけで幸せと歌うクリスティーヌの歌声に魅了された「ファントム」はオペラ座に立てるようクリスティーヌのレッスンを申し出る。
2人のレッスンが進みクリスティーヌは歌声を披露する機会を得て、オペラ座デビューが決まるが・・・


オペラ座の怪人」には描かれない「なぜ彼がオペラ座の怪人になったか」というところを見せる演目なのですが、ここの部分は2部になります。

オーバーチュアの間、オペラ座の地下に潜っていく映像が1部でも2部でも流れるのですが、これが軽いアトラクション気分で作品の世界観を乗せてきたいい演出だと思います。
全体に衣装もセットも豪華で、セリフのある役は少ないけれど、わらわらと人がたくさんいるのが「オペラ座」の裏側っぽいのもよかったですし、クラシックなコーラスも多く、存分に宝塚歌劇の強みは打ち出せたかなと。

さらにファントムとクリスティーヌの歌がめちゃくちゃうまいので、このハーモニーを聞くだけで、作品的には成功です。
もう2人の声が合わさったときの「音」が鳥肌モノの美しさでした。

なのでストーリーについてどうこういうのは野暮でしょう。
けれどもいいたくなる、え、そんな設定だっけ?なキャリエールの、ファントムの過去。
そしてファントムとキャリエールの関係性を考えると、実際はトップスターより年若い二番手がキャリエールを演じなければいけない宝塚制度も苦しい。

この体制でいくならば、2部のキャリエールの昔語りはキャリエール本人に若返らせてやらせてあげたいけれど、それはそれで役が少ないから他の生徒に当てるのも残念です。

ところでわたしが唯一覚えていたシーンというのが、キャリエールとファントムの最後の銀橋のシーンでした。
そのときのキャリエール・樹里咲穂さんのセリフの言い回しがうまくて上手くてそれだけが記憶に残っていたんですね。
それを彩風咲奈(咲ちゃん)がやるってことで、かなりドキドキものだったのですが、セリフ回しはともかく、このシーンの歌い出しの「音」(エリック、のエの部分)がすごく低く柔らかく暖かい音色ですばらしく、今回の「ファントム」は、「歌声」が良かったにつきるなと思いました。

ところで見ているうちになくなっていたと思っていた記憶も、どこからか蘇ってくるようです。
2部の美しく慈愛に満ちあふれ、まるで聖母のようにすら感じたまあやクリスティーヌの「My True Love」を聴きながら、これなら私がファントムも仮面外すわと納得してたんですけど、でも外した後の行動がふっと蘇ってきたんですね。
で当時のクリスティーヌ・花總まりさんのこの歌を「ファントムだまされるな。この女を信じるでない!」と思いながら聴いていたことを思い出したのです。

だから歌としては今回のまあやちゃんがあるべき姿なのだけど、役作りとしては花總さんの方が正しいわけですよ。

とはいえ、まあやクリスティーヌの「My True Love」が素晴らしすぎたのでこれは失くしたくない。
となるとその後の演出を「ガラスの仮面」の「二人の王女」でマヤが演じたアルディスの「ためらいの演技」くらいにしてもらえませんかね?
(分からない方は今すぐ「ガラスの仮面」文庫版16巻を買って読んでください!笑)

せめて鏡のシーンでシャンドン伯爵に「助けて」というセリフを変えるとか、その辺もともとの脚本をいじるのはやっぱり難しいわけでしょうか。

となるとまあやクリスティーヌが「わたしってピュアだからあなたがどんなでも大丈夫って思い込んでいるだけの軽さ」を込み込みで歌ってもらわないといけないわけで、しかしそんなの込み込みで歌われたら、ファントムだって分かってたけど仮面外したよ、にしないといけないわけで、いろいろと難しい演目だなと感じました。

あとは役について箇条書き。
カルロッタ 舞咲りんさん。
いやあ当たり役ですね。コミカルからシリアスまで自由自在。もちろん歌もすばらしい。

シャンドン伯爵 彩凪翔さん。
プレイボーイっぷりが板についた格好良さ。「シャンパンの王様」の肩書きの似合うこと。そして咲ちゃんキャリエールと本物の友だちっぽいところがステキでした。

アラン・ショレ 朝美 絢さん。
よくぞこんな役をきっちりと歌い演じたものです。あーさ(朝美 絢)の演技力の確かさを実感。
こうなるとあーさシャンドン伯爵も見たかったです。

ところで小池先生以外の一本ものを見るのがかなり久しぶりだったので、フィナーレのバリエーションに驚きました(笑)
娘役だけのシーンもあるし、ダンスナンバーの振り付けもいいし、銀橋を色んな人が歌って渡るわでとても楽しかったです。
ショー作家としてのスキルを存分に発揮されたフィナーレでした。

天才役は一級品@ミュージカル「ジャージーボーイズ」

10/27(土)17:00~ 新歌舞伎座

フランキー・ヴァリ 中川晃教
トミー・デヴィート 伊礼彼方
ボブ・ゴーディオ 矢崎広
ニック・マッシ spi

太田基裕
阿部裕
畠中洋

綿引さやか
小此木まり
まりゑ
遠藤瑠美子

大音智海
白石拓也
山野靖博
石川新太

演出: 藤田俊太郎

フランキー・ヴァリもフォーシーズンズも知らなければ、この映画の存在も知りませんでした。
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ジョン・ロイド・ヤング,エリック・バーゲン,マイケル・ロメンダ,ビンセント・ピアッツァ,クリストファー・ウォーケン
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


なのになぜ見に行ったか。
アッキー(中川晃教くん)の歌声が満喫できると聞いたからです。
感想。
なぜ、初演時、東京まで遠征して見なかった、私!
と大後悔するほどアッキーの歌声はすばらしく、ライブ感満載の楽しい作品でした。

ジュークボックス・ミュージカルというカテゴリーにはなるようですが、フォーシーズンズやフランキー・ヴァリの往年のヒット曲に違うストーリーをつけているわけではなく、彼らの物語を描いているので、ボーイ・ジョージニューロマンティック世代を描いたこのミュージカルに近いです。
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物語はフォーシーズンズの一人トミーが「天使の歌声」を持ったフランキー・ヴァリを見出すところからはじまります。
そこから起こることは、おそらく多くのバンドやグループが経験することなんだろうなと想像できる内容。
ドン底から成功へ。
そしてそこで起こる価値観の違いと才能と金銭からくる亀裂。
それでも「仕事のため」と日本人にはちょっとわからない「ニュージャージー出身者の連帯感」でグループを存続させていこうとするフランキー・ヴァリ
けれども一度入った亀裂は広がる一方で・・・。


3階建てのセットと、重ねられたテレビに映る映像、1番上に設置された客席が映る鏡に、最初視点をどこに持って行ったらいいのか迷ったのですが、物語がはじまるとすぐに馴染んでしまったのが不思議です。
照明も通常の演劇やミュージカルよりももっとライブ寄りでなかなか面白く、そういう点でも見応えもありました。

またキャストもそれぞれにいいキャスティングで、特に伊礼彼方が個人的には今まで見た役の中でもハマっていて見直しました。
憎めない悪役をできるのは実はなかなかいないのですよね。体格もいいし、王子路線よりもこちら側の役の方が彼に似合っていると思います。
また矢崎広くんをはじめて認識したのですが、かわいらしく、歌も上手でもはや今のミュージカル界の男優はテニミュに感謝しなければと強く思いましたね。
そしてほかのアンサンブルの方々も少ない人数でいろいろな役を演じ分け、好演していました。

でもそんなことよりどんなことより、アッキーなんです!

アッキーは演技は特にうまくはありません。セリフまわしが単調で、ストーリーテラーパートが最後に回ってくるのですが、そこのところは「うーん」という感じではあります。
でもそんなことはどうでもいいのです。

「天使の歌声」というキャッチフレーズをホンモノに感じるあの歌声。
天才を見つけた、という言葉どおりの天性を感じる何か。そしてその天性によるピュアさ。
モーツァルト!」の時のヴォルフガング役がそうだったように、アッキーそのものが「天賦の才能」を与えられた人で、だからこそ「天才」役をやらせると、もう役なのか本人自身なのかわからなくなるのです。

アッキーに与えられたものは歌声だけではありません。
舞台に1人で立って空間を埋めるというのも、努力と環境だけでは身につけるのが難しい能力なのですが、アッキーにはそれがあります。

とりわけ「君の瞳に恋してる」のシーンで、セットがカーテンで遮断され、ミラーボールと照明だけの中で歌い上げ、劇場中を圧倒するとあの華。
物語と伴って、彼はホンモノの天才でスターなんだ、と鳥肌モノでした。
このシーンだけでもこの作品は価値があります。
それにセリフまわしはあれだけど、アッキーって動き方はきれいなんですよね。リズム感が良いせいなんでしょうか。他の3人より振りと歌がバッチリはまってるのが素晴らしいです。

なりより往年のヒット曲が次々と流れて、ショーシーンが多く、楽しい!
観客もライブのノリで盛り上がるし、今年1番楽しいミュージカルショーだった予感がいまからしています☺︎

しかし本当にこの作品、中川晃教がいなければ日本版を作れなかっただろうなあと思うと、彼がミュージカル界にいてくれたことに心から感謝したのでした。

モデル気分は味わえる@台湾変身写真館

間違いなく一番読んでいただいている「宝塚ステージスタジオ」の体験ブログ

stok0101.hatenablog.com

なのに、このブログ、体験してからずいぶん経ってから書いたため、記憶が曖昧なところが多いのです。
本当にすみません。

このブログの内容充実のためにもステージスタジオにもう一度チャレンジしなきゃと思っていたのですが、なかなかステージスタジオに好みの衣装がラインナップされない。
そして自分はどんどん年をとっていく哀しさ…。

そんな焦りをよそに「台北食い倒れ旅行」計画のほうが進んでいきました。
ということであまり主張しない同行者たちをいいことに、旅行計画に半ば強引に「変身写真館」を組み込みました。
そんな「台湾変身写真館」のレポートをお届けしたいと思います。

お世話になったのは「Magic's」という変身写真館。
日本語も通じるとのことで、各種ガイドブックでもWEBサイトでも紹介されている有名店です。
予約もWEBサイトで日本から日本語でできました。
今回わたしたち3人組が選んだのがA(2着)コース。
13時スタートで申し込んだら、だいたい終わりの時間は17時だと返信がきたのですが、実際には3人全員が終わったのが15時頃でした。
なので終わり時間は最大長くても、の時間が見込まれていると思います。

雑居ビルの2階にあるお店なので、ビルに入ったらまずエレベーターで2階へ。
エレベーターがあいた瞬間、こんな空間が出迎えてくれて思わず気後れするわたし(^◇^;)


受付でコースの確認があって、配送と料金の説明がありました。
特別仕様のアルバムを作ったり、写真枚数を増やしたりするとどんどん金額があがっていくシステムです。
オプションはつけず、ただ1枚だけツーショット写真の追加を希望したので、配送料込で6500元(約26,000円)でした。
さてこれが安いか高いか。
まあでも日本でこれやっててても「高い!」となって行かないのは見えているので、海外旅行という金銭感覚の狂ったなかでやるのは正解です。

とりあえずお金の話が終わり、配送用の伝票も書いたら次は衣装を選びます。
タブレット2台が渡されたので同行者2人に渡して、わたしは膨大なアルバムから選ぶことにしました。
といってもWEBサイトでだいたい決めていったので、この辺は時間短縮できたと思います。
お店の膨大なサンプルの中から短時間で選ぶのはかなり難しいと思うので、先にWEBサイトでじっくり見ていくことをおススメします。

わたしが選んだ一着目がこちら。

一応同行人と「ポーの一族

花組宝塚大劇場公演 ミュージカル・ゴシック『ポーの一族』 [DVD]
宝塚歌劇団,明日海りお,仙名彩世,柚香光,高翔みず希
宝塚クリエイティブアーツ

のイメージで一緒に撮影したかったので、バラのドレスにしてみました。
髪型もこれでいいか聞かれたので「金髪は絶対にイヤ。黒髪にしてください」とお願い。
同行人が選んだ衣装の隣の写真がちょうど黒髪のヘアスタイルだったので「こんな風でいいか」と聞かれ、それで了承。

そして2着目がこちら。

これは事前に選んでいたものではなく、同行人が選んだ衣装の次のページに載っていたものです。
太い二の腕が隠れて、胸は強調できて、足も見せられる衣装がいいなと思っただけの理由で選びました。
こちらは髪型もこれでいいよと言ったのですが、これはちょっと後悔しました。
なぜ後悔したかは追って書いていきますね。

衣装を選んだところで、更衣室に案内され、荷物とアクセサリーなどを預け、携帯とロッカーキーを専用のトレイに入れます。
このトレイはほぼほぼ店員さんたちが管理してくれているので、気にする必要はありません。というか店員さんを信じるしかありません。
衣装が準備されると呼ばれ、カーテンで間仕切られているだけのフィッティングルームで衣装をきます。
わたしはガタイが良い+最近中年太りが激しいため、衣装が入るのか気にしていたら、全く問題ありませんでした。衣装は後ろのヒモでしばって調整するので、太い分には問題ありません。
(同行人が二人とも太れないのが悩みというスリムな体型でして、聞いてみたところ、細い方は衣装を安全ピンで詰められるそうです。大は小を兼ねるのです。でもなんとなくそれを聞いたとき哀しい気持ちになりました…)
そしてやはりブラの肩紐はハンパにおろされるので、こちらでも肩ひもなしブラでいかれる方がベターです。

衣装を着たら次はメイクです。
ガイドブックにすっぴんか下地程度で行くがよい、と書かれていたので、最低限の下地メイク&眉で行ったところ、そんなことは気にもされず上からガシガシ塗られました。
そして目に何かされたな、と思って鏡を見てみると、なんか目元が変になっている。
なんだ、この違和感。
と変な顔になってしまった自分にがっかりしつつ考えてみると、どうもアイプチをされたようです。

ちなみにわたしは二重なのですが、さらにそこからのアイプチ
つまり目とアイプチでできたもう一つの二重の間をメイクを埋めていく方式なのでした。
そうです、宝塚メイクが下まつげを無視して顔面にまつげの絵を描くことで目を大きくするのと逆の発想。
眉と瞳の間を狭くすることで目を大きくする方式なのです。
個人的にはこちらのほうがより西洋っぽい顔立ちになるので好みでした。
さらに嬉しかったのが何をどうしたのかさっぱりわからないけれど、顔のラインがシャープに小顔になっている!
宝塚メイクではここは補正されなくて(というかタカラジェンヌに顔のラインのたるんだ人なんていないので当たり前です)、自分の顔面素材にがっかりしたところだったので、これは嬉しい♪

メイクが仕上がったところで、最初にかぶされた髪ネットの上からウィッグがかぶせられました。
そして「自分の顔のどちらの面が好き?」と聞かれました。
そういえば昔、勤めていた会社の社長からわたしはどちらかの横顔のほうがキレイだと言われたことはあったのですが、どちらか全然覚えてなくて、思わず「え!どっちがいいですか?」と店員さんに聞くしまつ。
店員さんは嫌な顔一つせずにわたしの顔を右左と動かし、真剣に鏡で確かめて右と決めてくれました。ありがたい。
ウィッグをセットし、右側がメインとなるように髪飾りをつけてくれて完了。
この時点で想像以上の仕上がりでした。

さていよいよ撮影です。
カメラマンが紹介されて、名前の入ったホワイトボードを持たされて、間違いを避けるためのスナップを取られてからスタジオへ。

スタジオの中は軽く10セット以上のセットが置いてある比較的広い場所でした。
ゴシックホラーからオリエンタルまでカオスもカオス。広いセットだと4畳くらいのスペース。狭いのだと1畳あるかないかでしょうか。
セットはたぶん衣装を選んだときに決まってるのでしょうね。
カメラマンに連れて行かれるままでした。
ポーズは細かくカメラマンが指定してくれ、でっかいライトに照らされてると、モデルさんってこんな気分なのかな、と思いました。

とりあえず1着目が終わって、2着目の衣装変えへ。この時点では肩の羽っぽいのはつけずさっぱりした印象。普通に我ながら似合ってましたし、店員さんも褒めてくれました。(1着目は褒められなかったのでうれしいわたしw)
さらにメイクも衣装に合わせて濃くされます。
黒のアイラインで目全体を囲うという一度やってみたかったメイク。
さらに宝塚メイクで判明したわたしの口の小ささを補足してくれるリップメイクにも感動。
そしてロングヘアのウィッグをつけてみたら、なんかちょっとだけ、本当にちょっとだけですけど「ビヨンセ」風に。
色白&華奢にあこがれているのですが、わたしの素材は真反対にラテンな感じなので、このメイクとこの時点での衣装は割と似合っていたのです。
最初に2枚とも髪型はアップスタイルでいいかと聞かれたのですが、こっちをダウンスタイルにすればよかったなと思っているうちに、アップにされ、三つ編みのウィッグがさらに上にのせられていきます。
そしてどんどん大きくなる頭…。
さあ、ここで元の写真をもう一度見てみましょう。

彼女は頭小さくて、首も細くて長いからこのヘアスタイルが似合っていることに改めて気づきました。
さらに二枚目のつけまつげをつけられて、より濃くなったアイメイクに肩の羽根っぽい袖をつけると、出来上がったのは、見事なショーパブのママ感。
しかも首が短いので羽根の袖で首が埋まる(涙)

まあでもここまで来たらしょうがない。覚悟を決めて撮影です。
クールな感じで取りたかったのですが、カメラマンにはやたらと「柔らかい顔で」と指示される始末。
そして、一枚目でもそうだったのですが、肩を下げる指示を繰り返されます。
これはダンスでもそうなので、やはり美しい姿勢というのは肩がきれいにおりている状態なのだなと再認識。
ドレスと違って動きに自由が効く分、9センチくらいのピンヒールはいたまま片足を上げたりとなかなかの筋力を使いました。
(そして今、元画像と比べて靴が違っていたことに気づいたよ!元画像の靴の方が甲まであってラクそう)
いやマジでエクササイズ程度とはいえ、ダンスやっといてよかった。

撮影終了したら、メイクを落とすかと聞かれたのですが、メイク直し用のポーチをホテルに忘れていたため、つけまつげだけ外してもらうことに。
その後メイク落としにホテルに戻ったのですが、これがアイメイク専用のメイク落としを使ってもなかなか落ちない。
その場で落とされる方はメイクを落とすためのいろいろなアイテムを持参することをおススメします。

終わったら、お菓子とお茶が出てきました。
2時間の格闘でのどカラカラだったのでうれしい!
しかも口紅がおちないよう、ティーカップなのにストロー付(笑)

ということで、最終の写真はまだできあがってきていませんが、すでにいろいろ反省点が。
そしてこの反省を活かして再チャレンジしたい、と思わせるあたり、「台湾変身写真館」侮れません。

【10/26追記】
変身写真館を体験したのは、10/7だったのですが、アルバムが届いたのは10/24でした。


現地では11月中頃と案内されていたのですが、だいたい約20日後に届きました。
「肌とほうれい線以外に修正したいところありますか?」と聞かれていたのですが、「その2つをしてくれるなら充分」と答えて帰ってきました。

ドキドキと開封


いやー、肌とほうれい線をいじってもらうだけでこんなに違うんですね!
でもとりあえず2着目が濃いアイメイクのはずなのに、ほぼわたしの原型を留めていたのがナゾです。そしてこちら側はドアップの写真もありました。
うん、わたし、体型が1番問題なのね、、、と改めて厳しい現実に気づきました(涙)
ちなみにデータはUSBでこんな形で入ってました。


データ自体は1枚10MBくらいあるので、現地でアルバム作らなくてもこのデータでアルバム作るのはありかなと思います。

孤独と干渉どちらがマシか@シス・カンパニー「出口なし」

9/29(土)18:30~ サンケイホール・ブリーゼブリーゼ

ガルサン 段田安則
イネス 大竹しのぶ
エステル 多部未華子
ボーイ 本多遼
[演出/上演台本]小川絵梨子

サルトルというと世界史の中で「哲学者」としてちらっと学んだ記憶がある程度です。たぶん多くの日本人がそうじゃないかなと思います。
わたしも実は英国に行くまでこの戯曲のことを知りませんでした。
知ることになったきっかけは2004年のエジンバラ・フリンジ・フェスティバルにロンドンで勉強させてもらっていた小劇場劇団がこの作品も持って参加することになったからです。

(当時のポスター。5つのうち3つにスタッフとして参加しました)
その際にわたしは事前に送られてきた英語の台本を読んだのですが、さっぱりわからない。
仕方ないので、渡英前に大阪市立中央図書館の書庫から日本語訳の本を出してもらって読みました。
でも日本語で読んでもわからない。
そして渡英して稽古に参加しはじめてもわからない。

そんな「出口なし」とはこんな話です。
窓がなくたった一つの扉とブロンズ像、そして3つの椅子が置かれているだけの部屋がある。
そこにボーイに連れられて元ジャーナリストのガルサンがやってくる。
はじめてこの場所に来たガルサンはボーイにあれこれ聞くが、ここがそこであり、想像していたものとは違うようである。
すると次に郵便局員だったイネスが入ってくる。
彼女はここに来た理由を自分でわかっているという。
最後に裕福な若奥様であるエステルが登場。
無邪気な彼女はなぜこんなにところに自分がやってきたのか皆目見当がつかないという。
しかしながら3人は話をするうちに本当の自分をむき出しにしていく。


「出口なし」は本題を「Huis clos」といい、このフランス語を訳するときに「NO EXIT」となり、その英語を日本語に訳したため「出口なし」というタイトルがついたと聞いたことがあります。
本来は「接見禁止」とか「傍聴禁止」とかそういう意味だそうです。

わたしはスタッフで参加しましたので、稽古期間も含めるとこの芝居を丸2か月ほぼ毎日見ました。
けれど日本語で見るのははじめてで、改めて日本語で見てみると「出口なし」というタイトルもこの芝居にあったいたように思います。
扉のセットが象徴的だったのも、日本語タイトルを意識したようにも見えました。

わたしが参加したロンドンの小劇場劇団はこの芝居をエステルのWキャストで上演しました。
そのエステルの違いが明確に理解できだしたころ、やっとわたしはこの芝居の面白みに気付いたのです。
さらにやはり観客が入ると芝居は毎日変わります。
ある日見ながらひたすら笑っているカップルが客席にいたことがありました。
わたしには爆笑するポイントがさっぱりわからなかったのですが、演じている役者たちも「本来この話は滑稽な部分ももっているんだ。今日のような反応があると嬉しい」と言っていたその意味を今回の日本語での上演をみて、やっとわかりました。

ガルサンとエステルは俗悪的で、イネスは厭世的な人物です。
そんな3人がもつれあうさまはうんざりと醜い
けれど会話の端々やちょっとした間が笑いを産んだのです。

日本語ありがとう!(涙)
(そしていかに英語ではそこまで理解できていなかったか痛感しました…涙)

悲劇は喜劇になりうるのは人生の常で、人と関わらず生きていくのはほとんどの人にとって難しく、孤独をとるか人と関わって傷つくか、どちらがマシかは究極な選択な気がします。
「人と関わり傷つけあう」という環境を与えられ、それから逃れられない苦痛を味わう彼らの姿はどこか現代のわたしたちとも重なるところがあって、人間というのはどんなに時が経っても変わらない動物であることを改めて知りました。

今回の芝居ではそのスリリングさと滑稽さがとても面白く、興奮しながら見ました。
(この芝居は3人の本性が少しずつ分かってくるところも面白い部分なので、ネタバレなしの方向で書いてます。わたしは見る前から、そこがどこかも知ってるし、3人がどんな人間でどんなことをやってきたかも知ってるし、結末も知っているのにスリリングなんです。そこがすごい!)
わたしの中では、ガルサンは紳士のふりをしている臆病なオオカミなイメージだったのですが、段田安則さんのガルサンは「単なるみえっぱりのおじさん」でそれが今回の芝居に面白みを与えていたように感じました。
大竹しのぶさんのイネスはさすがの一言。
白いブラウスに黒ロングのタイトスカートという衣装もひじょうに似合ってらして、イネスらしかったです。
そして実はわたしが一番心配していたのがエステルの多部未華子ちゃん。

前述したようにわたしはエジンバラで二人のエステル(二人ともブロンド美女だったことを付け加えます)を見ています。
一人のエステルは本人も元々成熟した人で、行動的だったこともあり、エステルのすべての行動が「美しさを武器に、自分の感情の赴くまま楽しい人生を送れるように工夫していた」ような女性像だったのです。
彼女自身もエステルはどこか「計算して」行動している、と思って演じていると言っていました。
だからこそエステルが浅はかで哀れに見えたものです。
もう一人のエステルは実年齢が20歳そこそこで、エステルの幼稚さ、単純さ、そして美しく産まれた者だけがもつ傲慢さをもっていました。純粋だからこそ残酷さが際立ったのです。

ということで、わたしにとっては、エステルが「美人」であることは絶対条件だと思っていたのです。
けれど多部未華子ちゃんはかわいいけれど、決して「美人」ではない。
そこをどうするのか興味津々だったのですが、おじさんのガルサン、おばさんのイネスに囲まれたとき、彼女のもっている「若さ」が美しさになることがわかりました。
(ロンドンの劇団では当時女性陣は全員20代前半、ガルサンも30代半ばでした)
多部未華子ちゃんのエステルは「自分の若くかわいいところが男性にとって魅力的に映ること」に確信をもっている女のコでした。浅はかながらも考えて行動している人に見えました。そういう意味では上記の一人目のエステルに近かったです。
「わたしを離さないで」よりも個人的にはキュートで魅力的で好きでした。

この芝居、東京は新国立劇場の小劇場で上演されたそうですが、正直そのくらいが最大限だったと思います。
サンケイホール・ブリーゼブリーゼでは舞台そのものも大きすぎて、それをいかに閉鎖された空間にみせるか、カーテンを奥に向かって斜めに引いたりして工夫されていました。
もちろん他のセットは奥の扉と呼び鈴、そしてブロンズ像と3脚の椅子だけです。
それだけでこれだけ濃密な芝居が産まれるすばらしい作品です。

戯曲の日本語版は絶版になっていて購入が難しいのですが、英語版ならkindle版も比較的安価で手に入りますので、よろしければ。
No Exit and Three Other Plays (Vintage International)
Stuart Gilbert
Vintage


ラスト近くの、ガルサンとエステルが共謀してイネスを痛めつけるシーンのイネスのセリフが、英語版のほうがリズムがあっていいんですよね。Cowardが臆病者となるだけで、言葉としてはもちゃっとしてしまうのがちょっと残念でした。そしてイネスのセリフがこのシーンを「ショー」的に見せようとしているのですが、日本語ではそこまでなりきれないのも残念。
英語だとこのイネスのセリフです↓↓↓
Do as you’re told. What a lovely scene: coward Garcin holding baby-killer Estelle in his manly arms! Make your stakes, everyone. Will coward Garcin kiss the lady, or won’t he dare? What’s the betting? I’m watching you, everybody’s watching you, I’m a crowd all by myself. Do you hear the crowd? Do you hear them muttering, Garcin? Mumbling and muttering. "Coward! Coward! Coward! Coward!"
このセリフ回しがうちの劇団のイネス役を演じたコがうまくて、未だに耳に残っているんですよ。
そう思うと意味は全く分からないだろうけれど、フランス語でも見てみたいです。

世間と自分との孤独な闘い@宝塚月組「エリザベート」

9/14(金)13:00~ 宝塚大劇場

トート 珠城 りょう
エリザベート 愛希 れいか
フランツ・ヨーゼフ 美弥 るりか
ルイジ・ルキーニ 月城 かなと
ルドルフ 暁 千星
ゾフィー 憧花 ゆりの
マダム・ヴォルフ 白雪 さち花
エルマー 蓮 つかさ
ヴィンディッシュ嬢 海乃 美月

なんと宝塚のエリザベートを見るにはこの宙組

MASTERPIECE COLLECTION【リマスターBlu-ray版】『エリザベート-愛と死の輪舞-』('98年宙組)
姿月あさと,花總まり,和央ようか,湖月わたる,朝海ひかる
宝塚クリエイティブアーツ

以来のことになります。
東宝版も2010年版(瀬奈じゅんエリザベート×城田優トート)以来になりますので、8年振りのエリザベートでした。

もはや宝塚の代表作の一つにもなっている作品ですので、あらすじを紹介するのもどうかなとも思ったのですが、一応さらっと書いておきます。

第一次世界大戦がはじまる60年ほど前、ハプスブルク家がまだオーストリアで権力を握っていたころ、バイエルン王家の次女エリザベート(愛称:シシィ)は父親と自由を愛する気ままな少女だった。黄泉の帝王「トート(死)」をもを惹きつける魅力は、姉のお見合い相手だったオーストリア皇帝フランツ=ヨーゼフ2世の目にも留まり、二人は結婚し、シシィはオーストリア皇后となる。
しかしながら、自由奔放に育った田舎のお嬢さまシシィは堅苦しい宮廷になじめず、姑ともそりがあわず孤立していく。
そんなシシィの前に何度も「トート(死)」が現れ、死に誘う。シシィは拒否しつづけるが、孤独は深まり、ついに宮廷を飛び出し、さすらいの旅に出る。


ウィーンで作られたこのミュージカルを宝塚に輸入するにあたり、男役トップスターを主役にしなければならないという宝塚ルールにより、宝塚版のエリザベート「トートがシシィに恋をする」という小池修一郎先生による大いなる潤色が施されています。
ということで、宝塚版は「トートとエリザベート恋物語」として見るのが正しい見方なのだとは思うのですが、わたしは初演雪組に続く星組で上演されたものを見たときから「トートとはシシィの死への渇望が具象化した存在」と考えています。

シシィは歌にもあるように「ただの少女」で、わたしたちとそう変わらない。
シシィと姑・ゾフィーとの関係ややり取りだって、現在にもありえるでしょう。
嫌なことが起こって、それが続いて、逃げ出したくなることも、それでも放り出す勇気もなくて、「ああ、このまま死んでしまえばラクになるのかな」なんて考える日は、少なくともわたしには数えきれないくらいありました。
死にたい、わけではなく「死ねば今しんどい現実から逃げられる」という短絡的で甘い誘惑。
それこそがエリザベートにおける「トート(死)」だとわたしは捉えているのです。
日本語だから「トート」という響きが人名のように聞こえるけれど、ドイツ語ではまんま「死」と呼ばれているわけですしね。

とりわけシシィが夫に「母親か自分かを選べ」と突きつける最後通告のシーン。
演じる人によって違うのですが、今回の愛希れいかさん(ちゃぴ)のシシィもこのシーンで「弱気になって、自分に癒しを求める夫」を拒否することで、多少なりとも自分も傷ついているようでした。
そんなときにそっとやってくるのです、「死」という名の誘惑が。
でもここでシシィは誘惑をはねつける。
まだ人生を諦めるには早い。
まだ「死」を選びはしない
と。
そして彼女は改めて「自分」を貫き通して生きていくと宣言するのです。

でも、シシィが正しいか間違っているかは置いておいて「どこでも自分を貫き通す」のは簡単ではない。はっきり言って、自分と世間との闘いです。
その孤独な闘いに共感できるシシィだと、わたしはこの作品を非常に面白く見ることができます。
そして愛希れいかは想像以上のシシィを作り上げてきました。

東宝版のエリザベートでは、わたしが見たシシィたちは年齢が高く、前半の少女の部分がどうしても厳しいし、ウィーン来日公演版も残念ながら若いアンダースタディの方だったため、後半の中年期のシシィが厳しかったのですが、ちゃぴのシシィは「パパみたいになりたい」でちゃんと可愛くてわがままな少女でした。
後半の中年期のシシィを演じられることは「グランドホテル」で証明済み。
少女から中年女性まで1人の女がきちんと歳を重ねていくリアルな演技が本当に素晴らしかったです。

その上で今まで見たシシィとはまた違う、ちゃぴならではのエリザベート像がありました。
ちゃぴのシシィを見ながら思い出していたのが、藤本ひとみさんが書かれたこの本

皇妃エリザベート (講談社文庫)
藤本ひとみ
講談社

のシシィでした。

自己愛が強く、人にあわせたり媚びたりすることができない高いプライドの持ち主。
白城あやかさんのシシィが圧倒的な女王として民衆を、そしてわたしたち観客を威圧した「エーヤン、ハンガリー」のシーンでは、少女らしいとまどいの中に強さを見せ、このセリフを言ったあとの「はじめて目に見える勝利」に興奮しているかのような表情が忘れられません。
今まで決して多くはないけれど、少なくはない回数エリザベートを見てきて、わたしにとって、このシーンの白城さんを超えるシシィはいなかったのですが、ちゃぴは違う方法で納得させてくれました。

ところで「死」がシシィの中にある誘惑であるという解釈で見ているわたしですが、もう一つ思っているのが、具象化されたあれは「シシィのこうありたい姿ではないか」ということです。

stok0101.hatenablog.com

ちゃぴのシシィは傲慢でわがままです。自分を決して譲りません。その分、珠城りょうさんのトートはどこか誠実さや包容力を感じさせて、本当はちゃぴシシィもこんな風に素直に誠実に生きたかったのではないだろうかと思わせてくれました。
とはいえ、トートは誘惑ですからもう少し誘惑としてのセクシーさがあれば個人的には嬉しかったです。ドクトル・ゼーブルガーが本当のおじいちゃんみたいな扮装だったのは演出家の指示でしょうが、あそこは出来たらどこか危険な香りのするセクシーな男性像の方が好みでした。

一方のフランツ・ヨーゼフ2世(愛称:フランツィ)は現在でも賢明な王だったと賞賛されることが多いそうですが、エリザベートという作品の中では、やはり彼も「自分の要求ばかりを訴える」んですよね。シシィがそれ以上に「自分、自分」だからなんとなく流されがちなんですけれど、「疲れたから癒してほしい」とか、「一度きみが私の目で見てくれたら」とかフランツィも割と要求ばかりです。しかも自分は王族なのに恋愛結婚を通したくせに息子のルドルフには普通に政略結婚させて、彼の悩みには寄り添わないあたり、本当に「皇帝教育」の賜物だなあと思います。

美弥るりかさん(みやちゃん)のフランツィはそういう傲慢なところを、皇帝としての普通として、さりげなく感じさせるところが本当にすばらしかったのです。繊細さ、孤独、弱さ、ずるさ。それを美しく演じる、これこそが宝塚のフランツィの一つのあり方ではないでしょうか。

ということでちゃぴの完璧に作り上げたエリザベートとみやちゃんの傲慢で弱く美しいフランツィを再び見ることをとても楽しみにしていたのですが、台風24号のせいで前楽S席のチケットを取った公演が中止になってしまった哀しさ。
それでも、本日10/1に大劇場千秋楽を無事迎えられたこと嬉しく思います。
でもあの完璧に作り上げられたシシィを、出来たらまた見たいので、卒業後、今度は東宝版で演じてくれることを祈っています。

あとはキャストについてカンタンに箇条書きしておきます。

ゾフィーのすーさまもかんっぺきでした!理想的なゾフィーの歌声。強さとともに普通の姑でもあって、シシィのわがままさが際立ったところも面白かったです。すーさま、大好きでした。すーさまのゾフィーも本当にもう一度見たかった(涙)ご卒業おめでとうございます。

月城さんルキーニ。はじめて月城さんを認識したのですが、確かに美人ですね。歌も演技も良かったです。ただ、ルキーニ役だからわざとかもしれませんが、少し身体の動かし方の雑さが気になりました。改善されているといいなと思います。

ありちゃんルドルフ。脆さと危うさがかわいらしさと相まって堪りませんでした。

くらげヴィンディシュ嬢が、これまた素晴らしかった。わりと今までみたヴィンディシュ嬢が狂気っぽさを前面に出していたのに対して、くらげのヴィンディシュ嬢は気高くて心から自分を「皇后エリザベート」だと信じきっているのだとわかりました。そこにホンモノが現れてバランスを崩していくさまが良かったです。

さちかマダム・ヴォルフ。宝塚の舞台としてのギリギリのエロさがサイコーでした!もちろん歌も!

そして、宝塚歌劇団と小池先生と珠城りょうさんにお願いを。
東京公演ではぜひ、最後のパレードの銀橋でトップ娘役さんに挨拶するところを、麻路さきさんのようにちゃぴの手にキスしてもらえませんか
あれはサヨナラ公演で本来であれば主役であるはずのシシィ役に対する敬意を感じますし、なりより見ててキャッ♡となります(о´∀`о)←これで見終わってすぐ来週も行く!と大学さぼって平日当日券に並び、当時なけなしのお金をはたいてVHSを買ったくらいですから、やって損はないと思うのです(笑)

ところで最後に少し疑問があったので書かせてもらいます。前述したとおり、わたしが最後に宝塚版「エリザベート」を見た頃は「わたしが踊るとき」という歌はまだありませんでした。
そのため今回宝塚版でははじめて聞いたわけなんですけれど、あそこの歌詞に「カモメよ、私」とあるのにはじめて気づきました。
シシィのいとこで、有名なノイシュヴァンシュタイン城を作ったルートヴィヒ2世が、シシィをカモメと呼んでいたことはまあわりと知られてる話しではあるとは思うのですが、今回の舞台にはルートヴィヒ2世は登場しないし、わかりにくくないですか?
それともみんな、すんなり受け入れてるんでしょうか。まあその辺りも勉強しなさいよ、ってことなんでしょうか。

何はともあれ、わたしはいろいろな捉え方ができる「エリザベート」という作品がやっぱり好きみたいです。